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●感謝――心を元気にする習慣づくり⑨

2009-09-09 | ポジティブ心理学
感謝――まわりを元気にする習慣づくり⑨

● 内観療法
 非行少年の更生施設などで活用されている心理療法の一つに内観療法(吉本伊信氏による)というものがあります。
 過去を振り返って、「何をしてもらったか」、それに対して「どんなお返しをしたか」を内観させるものです。
 かわいがられた経験の少ない非行少年でも、あらためてこういう振り返りをする機会を得ると、ざまざまな感謝体験が回想されるようです。それが非行少年たちを変えるきっかけになるようです。
 実は、自分もあまりかわいがられた経験がないと思っていました。
 しかし、内観というより回想をしてみました。
 ありました。ありました。実にたくさん、口では言わねど、自分のためにしてもらったこと、そして感謝すべきことがふつふつと思い出してきました。
・ からだが弱いから、自分だけ牛乳をとってもらい、さらに養命酒まで飲ませてくれた。
・ 通信簿で良い点をとると、天ぷらかカレーを作ってくれた。
・ 大学受験できる家庭の経済状況ではなかったにもかかわらず、何も言わずに受験勉強させてくれた
などなど。

● 感謝マインドが生まれる
 普通に感謝マインドが生まれるためには、まずは、今の自分が幸せ との自覚が必要ですね。
たとえば、「今こうしておいしい食事できる幸せ」「よき伴侶が得られた幸せ」などなど
そして、その今現在の幸せが、過去のどこから、何からくるのかを考えることになります。
その際に、自分の努力や才能によるとすることもありえます。
あそこでのあのがんばりがあったればこそというわけです。その場合は、自信、あるいは、自分は有能である、という感覚の強化になります。これはこれで結構なのですが、感謝とはほど遠い方向になります。
これが極端になると、いわゆる自己チュー、つまり自分中心にしか物事が考えられない人なります。感謝マインドは、そういう人々につける風邪薬にもなります。

感謝の気持ちが沸いてくるためには、今現在の幸せは、自分のまわりにいた人々、あるいは組織(家族、学校など)のおかげ、という認識が必要です。
・小学校の担任の先生が、貧乏で払えなかった給食費をこっそり立て替えてくれた。
・母親が内職をして学費を出してくれた
・ 高校の先生方は、勉強嫌いの自分を勉強好きにしてくれた
こうした認識は、それが本当であったかどうかは問題ではありません。そのように自分が思い込めればそれで十分です。場合によっては、相手がまったくそんな意識がなかったとか、極端な場合、まったく間違っていたなんてことがあってもよいのです。
 今現在の幸せ感とそれをもたらしてくれた過去の原因の認識。
 これが自分の心の中でつながったとき、はじめて感謝マインドが生まれます。

 なお、冒頭の内観療法では、この逆をやっていることになりますね。まずは感謝の対象を見つけさせるのですから。でもそれを見つけたら、結果として、今現在を幸せ感で満たすことができます。

● 感謝マインドの内容を詳しくみると
ここで、感謝の対象としてたぶん、もっとも挙げられるであろう母親への感謝の内容についての池田幸恭氏の調査研究があるので、簡単に紹介しておきます。
 調査は中高大学生にわたって行われました。その結果、感謝の内容は次の4つ。そして、中高大学生の思いの違いは、右に示すようになっています。いずれも、女子が男子を上回ってします。  
①援助してくれることへのうれしさ   中=高<大
②産み育ててくれたことへのありがたさ 差なし
③負担をかけたことへのすまなさ    大<高
④今の生活は母親のおかげ       差なし
いかがでしょうか。
あなたの母親への感謝の内容と比べてみてください。 

●感謝マインドを作れない人
 ところで、どうしても、感謝マインドが作れないという不幸な人がいることが知られています。
ガバードという研究者によると、「自己愛性人格障害の人」です。
両極端があります。
「周囲を気にかけない自己愛的な人」
・他の人々の反応に気づくことがない。
・傲慢で攻撃的である。
・自己に夢中である。
・注目の中心にいたい
・送信者であるが、受信者ではない
・明らかに他の人々によって傷つけられ たと感じることに鈍感である。
「過剰に周囲を気にかける自己愛的な人」
・他の人びとの反応に敏感である。
・抑制的で、内気で、あるいは自己消去的でさえある。
・自己よりも、他の人々に注意を向ける。
・注目の的になることを避ける。
・侮辱や批判の証拠が無いかどうか、注意深く、他の人々に耳を傾ける。
・容易に傷つけられたという盛情を持つ。差恥や屈辱を感じやすい。

  冒頭の非行少年に、こうした傾向を読み取れますね。
  内観療法が効果を発揮するゆえんです。

●感謝を表現する
いま 心理学の授業の冒頭の時間を使って、ポジティブ・マインドづくりの実習をしています。その最初が「感謝マインドづくり」です。
ねらい2つあります。
一つは、ここまで述べてきたように、過去を振り返っての感謝の表明です。いわゆる感謝状書きですね。
人でも組織(学校や地域など)に対して、
「あなたが自分に??してくれた陰で、今こうして幸せです」
ということを文章に書くことです。
自分でもやってみました。

ひとつは、受講学生に対して、「よくぞ、本学に入学してくれた。ありがとう」。
もう一つは、定番ですが「妻への長年の労苦に対する感謝状」です。

やってみて気が付きました。
学生への気持ちが穏やかなものになりました。
妻への思いも深いものになりました。
感謝状効果、馬鹿になりません。

感謝マインドづくりのもう一つは、「ありがとう」「お陰さまで、助かりました」を口癖にする習慣づくりです。
過去を振り返ることで感謝マインドを作り出せたら、それ毎日の生活の場で活かすのです。
生活の場では、心の中ではそう思っていても(感謝していても)、ついそれを言葉に出せないということが結構ありますね。
それを、1日、2日単位で振り返り、書き出してもらうのです。
・朝、お弁当をつめてくれた母親に「いつもありがとう」が自然に出るようにするのです。
・エレベータでドアを開けて待ってくれた人に、「ありがとう」を言えるようすることです。

なお、こういう時って、どちらかと言うとネガティブな表現である「すみません」のほうをよく使ってしまいがちですが、どうせなら、ポジティブ表現の方がいいですね。
いずれにしても、感謝マインドが少しでも芽生えたら、口に出せるように習慣にしてしまうのです。
そうすれば、感謝された人にも感謝マインドが伝染します。そして、自分のしたことが相手に感謝されたことがはっきりとわかることで、自信になります。
さらに、相手も、自分のした行為が人の役に立ったという有能感に浸ることができます。それがやりがいにつながります。そのきっかけを与えてくれたあなたへの感謝にもつながります。
ポジティブ・スパイラルがあなたの周りで巻き起こることになります。

最後に、天童荒太「悼む人」(文藝春秋)の奇妙な感謝をめぐる本を紹介しておきます。
縁もゆかりもない死者のゆかりの地をたづね、「その人は、誰を愛したか。誰に愛されたか。どんなことで人に感謝されたことがあったか」を聞きまわり、それもとに死者を悼むのです。それが次第に周囲に感謝の波紋を投げかけていくのです。
たまたま目に触れた本ですが、感謝物語にこんな世界もあり、ということで紹介してみました。