「話し方力アップ」
● 話し方はどうしてこれほど気になるのか
最近は、原稿を書く前のヒント探しに、Google検索をするのが常である。「話し方」でも検索してみた。28万件がヒットする。Amazonの本の検索でも、1200冊がヒットする。いかに人々が話し方に関心があるかがわかる。
ちなみに、「書き方」では、Googleで95万件、Amazonでは3000冊がヒットする。いずれも話し方のほぼ3倍なのがおもしろい。
さて、話し方に強い関心あるのは、なぜなのか。その理由は2つにつきる。
一つは、うまく話せなかったという失敗体験に起因するものである。
話すのは、その時その場での実時間での行為である。この点、書くのとの大きな違いである。となると、当然、うまく話せなかった、あるいは、言い間違いをしてしまった、といった体験をごく日常的にすることになる。
そして、第2には、しかし、努力すれば失敗しないようになるはず、さらにうまく話せるようになるはずだが、努力の仕方がわからないから知りたいというものである。それが検索数の多さに反映されている。
● うまく話せない
話し方も含めて、人間のすることは、エラーだらけである。たとえば、物をつかむような行為にしても、一見するとスムーズに行われているようでも、実は、微妙な訂正行為を何度も行っていることがVTRのスローモーション映像からわかる。
話す行為でも、誰もが暗黙裏にエラーを前提にしている。間違ったことを言ってしまっても、それが相手の記憶に残っている時間範囲なら、ただちに、言い直せばよいことを知っている。
もっとも、たとえば、1時間の授業全体がうまくいかなかったという場合にやり直しはきかない。周到な準備が必要である。
我が大学の学部長。スピーチの名人である。ある時、聞いてみた。「先生のスピーチは即興のように見えますが、そうなのですか?」
先生いわく。「とんでもない。即興はまずない。ひと言スピーチでも必ず事前準備をする。時には1月前からすることもある。」
内容の事前準備はいくらでもできるが、その時その場での話し方は、そうはいかない。予行演習やメンタルリハーサルもあるが、毎回完璧にというわけにはいかない。その時その場勝負の部分がどうしても残る。実は、この部分が、その人なりの話し方の魅力になることが多いので、やっかいである。これは、場数を踏むしかない。
● うまく話す
話し方というと内容はどうでもよいような感じを与えるが、そんなことはない。
話し方と内容は切り離せない。相手が聞くに値する内容を上手に話すのが基本である。
ドクターフォックス(狐)実験というのがある。大学の講義で、本職は俳優である狐博士に巧みな話し方で、しかし支離滅裂な内容の講義をしてもらう。しかし、授業後の大学生による評価では、狐博士の講義のほうがが絶賛されたというのである。
だから話し方が大事、とらないでほしい。話し方だけを孤立させてしまうと、こんな怖いことになる、という警鐘として聞いて欲しい。
その上で話し方上手になる心がけと方策のいくつか。といっても、大小取り混ぜると、その数は多いしかつ多彩である。プレゼン場面での聞き手の頭の働きの観点から3つに絞ってみる。
1) 見通しを最初に
今日の話の概要はこういうことです、ということを最初に話すことは必須である。これによって、聞き手は、頭の中にある関連知識を引き出してきて聞く内容を取り込む用意ができる。できれば、目次のようなものを見せることもあってよい。
2) 具体性を
知識の豊富な人が張り切れば張り切るほど、話しが抽象的なる。なぜかというと、知識の豊富さは抽象化によって保たれているからである。それをそのまま話すと、子どもは、天空からの神のお言葉を聞かされているような感じになる。
まずは、話す内容を限定することが必要である。抽象的な概念を駆使しての話は、どうしても話す内容も増えがちになるからである。
その上で、具体化の方策を用意しておく。
・ 自分あるいは子どもに引きつけたエピソードを入れる。
・ たとえを入れる
3) 聞き手の注意状態に配慮する
小中高での50分あたりが注意持続の限界である。50分間の間でも、集中している時と、集中力が低下する時とがある。しかも、話しの内容が子どもの興味関心を引かなければ、たちまち集中力は低下する。
したがって、子どもの集中力を管理できる方策をいくつか用意する必要がある。
・ 手足を動かさせる
・ 発問する
・ 視覚に訴える
・リズム、流れ、調子を変える