集中力は馴れによって節約できる
われわれは、毎日の生活を快適に過ごすために、たくさんのことをしなければならない。
歯を磨く、食事をする、服を着る、電車に乗るなど、これらのことすべてに、いちいち注意のエネルギーを集中していては身が持たない。
ところが、生活習慣の違う外国にいって生活をしてみると、つまらないことに貴重な注意のエネルギーを使わざるをえない。例えば、電話ひとつにしても、どこにお金を入れるのか、「もしもし」の代わりになんと言えばよいのか見当がつかないので、一所懸命に頭を使うことになる。電話だけでなく、スーパーでの買い物にしても事は似たようなものである。だから馴れない外国での生活は気が疲れる。
注意の集中は、ここ一番のがんばりがいるとき、慣れないことや大事なことをするときにだけ発揮し、どうでもいいところでは省エネを実行することが快適に生活し長生きするコツである。
注意は心のエネルギーである。一度使ってしまえばなくなってしまい、補給するのに時間がかかる。だから大事に使いたいのである。また、使わなければ、どこかで、一度に集中的に吐き出すことも可能で、ためておけば、それだけたくさんの集中力が充電できる。
幸いなことに、我々は日常生活のほとんどを無意識のうちにこなしている。歯を磨くのに注意のエネルギーを割く必要はない。箸を動かすのにいちいち注意を配分するのは、自分で始めて食事ができるようになる2歳頃の話である。
何度も同じところに電話していれば番号を覚えてしまい、改めて調べる必要がなくなる。手紙も、一定の書き方を覚えてしまえばスラスラとかけてしまう。ワープロでも、指の動かし方に熟達してしまえばそれだけのものを考えるほうに集中できる。相当難しい仕事でも、慣れてくればどんどん無意識のうちに自動的にこなせるようになる。注意力を改めて注ぐこともない。
慣れること、熟達することは、注意エネルギーを有効活用する鍵だが、実はこれが一番難しい。たしかに同じことを数多く繰り返せばよいのであるが、そのためには、最初の注意の全エネルギーを割かなければならないからである。
見たり、覚えたり、学んだりする機能を鍛えるということは、こういうことなのである。つまり、最初は、10の努力が必要であったのが、次第に8になり、5になり、やがては2の努力で十分になる。そして、残った注意のエネルギーを、より大事なことに使えるようになってくれば人生が楽しくなり、人生の勝利者になれることもうけあいだ。