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ヒューマンエラー低減のための心理学からの提言(保存用)

2012-03-31 | ヒューマンエラー

08.3-17海保

    ヒューマンエラー低減のための心理学からの提言

         東京成徳大学 海保博之

 

概要******************************************

我々は、「---せよ」という使命(Mission)に基づいて計画を立て、それに従って実行し、それが計画通りに行なわれているかをチェックする一連の過程--M・PDS--を繰りながら一つ一つの仕事を行なっていきます。その4つの過程で起こりがちな、「目標の取り違えエラー」「思い込みエラー」「うっかりミス」「確認ミス」の心理的な発生のメカニズムや特性を探り、それにいかに対処すればよいかについて考えてみます。

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前提

 人は必ずエラーをおかす。エラーを事故に直結させない組織的かつ安全工学的な手だてを考えるのが王道。その上で、メタ認知力(自己モニタリング力と自己コントロール力)を高めることで、事故につながるエラーを少しでも減らせることはないかを考えてみる。

メタ認知

 ●自己モニタリング機能としては、次の3つがある。

  ・自分が何を知っていて何を知らないかを知る(知識)

    例 機械の構造は知らないが、どうすれば動かせるかは

      知っている

  ・自分は何ができて何ができないかを知る(能力)

    例 携帯電話をしながらの運転は自分にはできない

  ・自分が今どのように頭を働かせているかを知る(認知活動)

    例 やや集中力がにぶってきている

 ●自己コントロール機能としては、

  ・どのように頭を働かせればよいかを知る(方略選択)

    例 忘れてしまいそうなのでメモをしておこう

  ・認知活動を最適なものに調整する(調節)

    例 ここは大事なところなので集中しよう

 

本日の講演の概要--使命・計画・実行・確認とエラー

 人は仕事をするときに、

1)まず、「---せよ」という使命を与えられます。

2)その使命を達成するために、

計画(plan)を立て、

実行し(do)

それが目標に向かってすすんでいるかをチェックします(see)

PDSです。このPDSのサイクルが幾重にもなって一つの仕事が達成されています。

3)使命-計画-実行-確認(M・PDS)の4つのステップのサイクルに齟齬ができるとエラー、事故になる。

4)本日の講演では、4つのステップで発生するこうしたエラー、事故の特徴やそれを防ぐため、あるいはそれを事故につなげないための方策をお話させていただきたいと思います。

 

第1 使命の取り違えエラー---使命と計画(目標)の齟齬

 

 仕事をするとき、使命(Mission)に基づいて、目標をたてます。

 そのとき、「安全に関する使命」と「仕事に関する使命」とがあります。

 そして、通常は、安全の使命の制約の中で、仕事の使命を達成します。

 しかし、作業現場で仕事をしている人の頭の中ではいつもこうなっているとは限りません。時には、仕事上の使命が安全の制約をはみ出てしまうことがあります。この時起こるのが、目標の取り違えエラーです。

・乗客のために、悪天候の中を無理して飛んで事故 

・速くできるので、決められた治療手順の一部を省略して事故

・業績を挙げたいために、法律違反の手を使って事故 

 

 「自分の力を示したい(自己顕示欲)」「自分の力を確認したい(自己有能感)」「業績を挙げたい」「競争に勝ちたい」、あるいは、「乗客や患者を喜ばしたいという優しい気持ち」などが、こうした目標の取り違えエラーによる事故を引き起こします。

 

 そこで、使命の取り違えエラーをさせないためには、

1)目標管理をきちんとする

・安全目標と仕事目標とが葛藤するようなのはだめ

・複雑な目標構造はだめ 

 例 「制限速度の遵守」の下に「時間ぎめ配達」

・抽象的な目標の提示だけではだめ 

 例 「交通安全」より「制限速度を守る」

2)教育・研修によって、絶えず、安全目標を活性化させておく

 使わない知識は記憶の底に沈んでしまう。事故はまれにしか起こらないため、安全に関する使命も知識がすぐに不活性化してしまう。

・朝礼などで折に触れて絶えず使命構造の確認をする

 

**  

第2 思い込みエラー--誤った目標を忠実に実行するエラー

 

 「急いで」といった時間プレッシャー、あるいは、状況の急激な変化による情報爆発は、人の頭を混乱させます。

 こんなとき、我々は何が何やらわけがわからない(認知不安の)状態になります。あたかも「情報の森に迷い込んでしまった」ような状態になります。こんなとき、人はどんな事をするでしょうか?

  

 冷静に情報を分析して論理的に推論してといった対処はあまり期待できません。そんな悠長なことをしていると、事態のほうがどんどん進んでしまうからです。

 

 そこでどうするか。一つの方略として---いつもではないが---、

状況の中にある目立った手がかりだけに基づいて、自分なりのとりあえずの解釈をするためのモデル---メンタルモデルと呼びますが---を作って対処してしまうという方略があります。

 ここでクイズ。「タクシーを足で止める人はまずいない」は正しいでしょうか?誤っているでしょうか?

「いない」と答えたら、それは、思い込みエラーです。あなたは、乗客の視点からしか、状況(クイズ場面)を見ていないからです。

 

 もちろん、いつもエラーになるとは限りません。「やったー、思い通りだった」(納得的情報処理)ということもあります。だからこそ、人は、しばしば、こうしたリスクのある「メンタルモデルに駆動された判断・行動」を採用するのです。

 

 人は、何がなにやらわけがわからない(認知不安な)状態を嫌うようです。わからないときは、ともかく自分なりにわかってしまって、安心しようとする心性があるようです。

 

こうした思い込みエラーの困った点は、

○視野狭窄が起こる(そのとき目立つ手がかりへの固着が起こる)

  例 不具合時のオペレーターの視野狭窄

○エラーであることに、なかなか自分では気がつかない

○メンタルモデル(そのときその場の状況を解釈する枠組)にそぐわないことが起こってもそれは、例外、特別と考えて、メンタルモデルを維持する(確証へのバイアス)

 

では、思い込みエラーを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか?

1)わけがわからない状況にしないことです

そのためには、まず状況をわかりやすくすることです。

・仕事の目標や全体像をあらかじめ示す

・仕事に関連する知識を豊富に、かつ高度化しておく

2)時には、判断中止(エポケ)も大事であることを知ってもらう

  例 10分間ルール(10分間は何もしなくてもよい)

3)自分の思いを人に話せるようにする/話すようにする

そのためには、まず、コミュニケーション環境を良好にしておく

 ・言いたいことが言える。しかし、責任を持つ人がいる

思いを話すことで、

・人と情報を共有する

・思いを外に出す(外化)ことで自己の思いに気がつく

4)その場から離れさせる

・冷静な目を回復させる

5)知識量や考え方の異質なメンバーを入れて、fresh eyeによるチェックを作り込む

 

 

***

第3 うっかりミス(スリップ)---実行段階で失敗

 

うっかりミスは困りものです。

誰もが必ずといっていいほど、やってしまいます。

試しに、自分でうっかりミスを体験してみてください。

 

○「数字を1から順に、ひらがなでできるだけ早く書いてみてくだ  さい」

○「お」という平仮名をできるだけ早く書いてみてください。

 (書字スリップ)

 

 普段とは違ったことをするわけですから、注意を集中してしっかりとやらなければなりませんが、「急いで」という時間プレッシャーが、「注意の自己コントロール」を乱します。そこで、ついうっかりとなるわけです。

 

 では、注意の自己コントロール力を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。

 

 その前に考えるべきことは、認知的な負担を軽減するような作業環境を整えることです。次のような配慮が必要です。

○2重、3重の課題状況にしない

  例 電話を受けながら調剤をする

○認知的な葛藤の起こるような課題にしない

  例 漢字ストループ干渉

○時間プレッシャーをかけない

○仕事と安全とを分離する

 

 さて、注意の自己コントロール力を高める方策としては、

1)注意の特性を知る

  例 注意の受動的側面と能動的側面

    注意レベルとパフォーマンスの関係

2)自分の注意のくせを知る

  例 集中力の高いか低い  集中の持続力が長いか短いか

3)管理用の注意を常に確保して複眼集中の状態で仕事をする

4)感情を安定させる

5)妥当な休息管理システムを作る

 

 しかし、注意の自己コントロール力にも厳しい限界があります。うっかりミスが起こるのは防げません。

 したがって、うっかりミスをできないような仕掛け、さらに、うっかりミスをしても大丈夫なような仕掛けを作っておくことが大事。

1)うっかりミスをしないような仕掛け

・何かをするときに、そのことを意識するような仕掛け(フールプ ルーフ)

・順序通りにやらないと、動かない(インターロック)

・バリアーフリー

・自然に適切な行為ができるようにする(アフォーダンス)

2)うっかりミスをしても大丈夫な仕掛け(フェイルセーフ)

・うっかりミスを吸収する(冗長性)

・不具合が起こったら停止する(フェイルダウン) 

3)被害が拡がらないようにする(多層防護)

・リスク管理態勢を整備する

 

****

第4 確認ミス---行為と目標との齟齬

 

 エラーをおかすのは人間である限りしかたがありません。

とすれば、エラーをしたかどうかを確認して、事故につながらないようにすればよいということになります。

 ところが困ったことに、確認という行為にも

○確認行為そのものを忘れる

○確認そのものにミスが起こる

 

となると、確認ミスは起こるという前提で、うっかりミスとおなじような仕掛けを作り込んでおくことをまず考えておく必要がある。

その上で、

確認行為を確実なものにし、確認ミスを逓減するには、

1)一連の仕事の流れをあえて中断して確認する場所--ホールド・ポイント--を設ける

 とりわけ、仕事に熟練すると、ほとんど努力なく「むり、むだ、むら」なく流れるかのごとく仕事が進んでいきます。これを「仕事のマクロ化」と呼んでおきます。その途中で、うまくいっているかを確認するのは、なかなか難しいからです。 

2)確認を動作として外に出すようにして(外化)、確認行為を確実なものにする

 例 指さし呼称

    指でさす--->確認場所や行為の焦点化

    呼称--->頭の中だけの確認にしない

3)確認は別の人が行うようにする

4)仕事の経過が見えるようにしておく

  ブラックボックス化された電子機器では、設定するだけであと  は機械まかせになりがち。

5)仕事が終わった後の確認を確実に行う

  例 4S(整理 整頓 清潔 清掃)

 

最後に---有能な悪魔の代弁者になろう

人は細かく指示されることを嫌います。自主性にまかされるほうが気持ちよく仕事ができます。とりわけ、エキスパートほどそうです。

人は自分が有能であることを確認したい存在です。

しかし、事、安全に関しては、そこは目をつぶって安全第一を訴えるしかありません。「悪魔の代弁者」(安全についてうるさく言う人)が必要があります。

最近、経済産業省に原子力安全・保安院というセクションができました。それに伴って、原子力施設にまさに「悪魔の代弁者」を常駐させるようになりました。

皆様が「有能な」悪魔の代弁者になれるための一助に、本日の私の話が役立っていただければ、幸いです。

 

海保の参考書

「ワードマップ ヒューマンエラー」(新曜社)

「ワードマップ 安全・安心の心理学」(新曜社)

「失敗を”まーいいか”にする心の訓練」(小学館文庫)

「人はなぜ誤るのか」(福村出版)

「ミスに強くなる」(中災防新書)

「ミスをきっぱりなくす本」 (成美堂文庫)

 

 

 

 


楽しむ知性「名言の心理学

2012-03-31 | 名言の心理学

成熟社会の経済をうまく回すには、人生の質を高める高度消費が必要なのです。

生活者自身も知恵を絞って、いろいろなことを楽しむ知性や体力を磨かないといけない。

(小野善康・大阪大学フェロー)

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成熟社会の定義はわからないが、

飢えをわずかだが経験することから人生をスタートした世代からすれば、

今が、成熟した社会というのは実感として納得できる。

しかし、成熟社会が人生のスタートとなっている

今の若者には、何が成熟社会なんだとなるのではないか。

いずれにしても、

成熟社会の学問的な定義からすれば、間違いなく今の日本は成熟の

きわみの社会だと思う。

「きわみ」だから、あとはもしかすると没落していくかもという不安は

東日本大震災によって非常に高まっている。

やや話がそれた。

成熟社会の高度消費の話。

できるのは、お金と時間と体力のある高齢者世代。

難しく考える必要はない。

要するに、お金を使えということ。

たんすと銀行にお金をあつけておくのはほどほどに

ということ。

はい、がんばります。

 


心理学の歴史

2012-03-31 | 認知心理学

 

心理学の始まり

 

心理学とは、生物体(人間や動物)の心や行動を研究する学問です。心理学が哲学の領域から独立し、1つの研究分野として成立したのが19 世紀後半ですから、その歴史はそれほど長くありません。

簡単に心理学の歴史を見てみましょう。20 世紀前半の心理学を支配した考え方は“行動主義”と呼ばれるもので、提唱したのはジョン・ワトソンというアメリカの心理学者です。「行動は目に見える、観察することができる、そして測ることもできる。心理学を科学にしたいなら、目に見えない心よりも、外に現れる行動をこそ研究すべきである」とワトソンは主張しました。心理学を自然科学と同じようなサイエンスにしようとしたのです。これが行動主義の狙いでした。

 

認知主義から現代の心理学へ

 

ところが、1950 年頃を境に、行動主義に対して「やはり、心や意識を研究するのが心理学なのではないか」という考え方が出てきました。この背景には、コンピューターの出現があります。コンピューターは人工知能を実現できる機械です。人間の知能を持つ機械をつくろうと、コンピューターの設計や人工知能の研究が始まりました。

この考え方が心理学にも取り入れられ、コンピューターの仕組みから人間の心を考えていこうという研究が行われました。こうした考え方を“認知主義”といいます。認知とは知覚・記憶・推論・問題解決等の知的活動のことで、コンピューターをモデルに人間の頭の働きを考えようとしたのです。行動主義では行動しか扱わなかったものが、コンピューターをモデルにすると目に見えない心についてもわかることがたくさんあります。「心を知ろう」とするわけですから、ようやく心理学の原点に戻ってきたと言えるでしょう。

 

心も行動も

 

時代は進み、現代の心理学は「行動も心も研究しましょう」というスタンスです。良い意味で“何でもあり”で、タブーがなくなり、心と行動が包括的に研究されるようになりました。果たして、こうした心理学の流れに対しても、「○○主義」の名前が付くのでしょうか。