1 一人になる
人間は他人と一緒にいればそれなりに気をつかう。話しかけられればあいずちを打たなくてはならない。相手の気分をそこねないためには愛想の一つも言わなければならない。他人の何気ない仕草の中にあなたへのメッセージを読みとらなくてはならない。
しかし、「気をつかう」には、限られた注意のエネルギーをそれなりに費やさなくてはならない。そのために消費する注意のエネルギーは驚くほど大きい。
たくさんの人と会った時とか、初対面の人と会った時とか、気むずかしい上司と一日つきあつた時とかには、家に帰ってグッタリしてしまうほどエネルギーを使う。
使えば、それだけ減るのがエネルギーである。補給するのに時間と手間がかかる。これから注意のエネルギーを一気に爆発させようという時に、オイル漏れの状態にしてしまうのが「気をつかう」環境である。「一人になること」はまずオイル(注意)漏れのないように周りを囲ってしまおうというものである。
むろん、一人になるだけで瞬発カが発揮できると言うほど話は簡単ではない。ここからが色々と大変なのだが、とりあえずの環境作りとしては、「一人になる」ことが必要なのである。
スポーツの試合を見にいくと、本番前の選手の動きがおもしろい。一人でじっと瞑想していたり、からだをリラックスさせていたりするのが目につくはずである。時には、ウォークマンを耳にあててからだでリズムをとっている光景さえ見ることがある。そのスタイルはさまざまであっても、「一人」という点では共通している。
みんなと一緒に楽しくやりたい、和気あいあいと語り合いたいという気持ちをひたすらおさえて自分自身と向きあい、注意を自分の中にためこんでいるのである。
これは、ちょうどダムに水をため込むのに似ている。たくさんたまるほど大きなエネルギーを出せる。ためるには、できるだけ水を流さず、じっと我慢する必要がある。
瞬発カとは、ダムの放水のようなものだ。ためにためたエネルギーを必要な時に一気に放出できれば、驚くほどのカが発揮できる。