●回想療法
高齢者用の心理療法、というよりケアー(介護、援助)技術の一つとして回想療法というのがあります。
回想療法とは、過去の思い出を引き出して、高齢者の頭の働きを活性化し、さらに、過去を思い出させることによって、自分の人生の物語作りをさせようというものです。
活性化とか物語作りという耳なれない言葉がいきなり出きましたが、これについては、のちほど説明することにして、話を続けます。
自分も現在67歳。
過去が忽然と思い出されることがあります。ほとんど何の脈絡なしに思い出すこともありますし、その時その場の何かに触発されて思い出すこともあります。
楽しい思いでもありますが、つらい、悲しい、思い出したくないことも思い出してしまうこともあります。
楽しい思い出は、気持ちを元気にしてくれますが、反対に、つらい思い出は気持ちを落ち込ませます。
できれば、楽しいことだけを思い出したいものですが、そう都合よくはいきません。
村上春樹著「浜辺のカフカ」(新潮社)にこんな1節を見つけました。
「思い出はあなたの身体を内部から温めてくれます。でもそれと同時にあなたの身体を内側から激しく切り裂いていきます」
そこで、ここでは、もっぱら楽しい思い出の回想が、頭を元気にする話をしますが、その前に、つらい、悲しい思い出の回想はどうするかについて、先に一言述べておきます。
そんな回想、というよりそんな過去の経験はないのに越したことはないのですが、長い人生、そうはいきません。そして、あるときふと脈絡なくそれが頭に浮かんできてしまいます。ひどいときは、夢でうなされたり(悪夢)もあります。
でも、そうした回想も、実は、回想することで心が開放されるということもあります。無理にそうした回想を閉じ込めて思い出さないようにするよりも、むしろ思い出すことで、気持ちが楽になることもあります。そして、思い出すたびに悲しい、つらい気持ちがだんだん弱まって冷静に見つめることができるようになってくるところもあるはずです。感情の知性化といいます。
このように考えれば、回想も、プラスもマイナスも含めて、頭と気持ちを元気にする心の働きとして活用していきたいものです。