30年前になるが、マニュアル(操作手順書)のわかりやすさの研究をしていたことがある。いくつかの研究テーマの遍歴があるが、このテーマが一番おもしろかった。研究としても、基礎と応用とのバランスがとれていてなかなかのものだったと自負している。
どんなことをしたかというと、「ユーザ(機器の使用者)は、マニュアルを読む時に、こんなふうに頭を働かせて読むのだから(心理法則)、制作者は、こんな指針(デザイン原理に従ってマニュアルを制作すべし」ということを網羅的に提案したのである。
たとえば、(「――」がデザイン原理。<<――― が心理法則)
○指針1「操作の結果を示す」<<やったことは即刻確認したい
例 BFキーを押します(操作)ー>XP画面が出ます(結果)
○指針2「操作の全体像を先に示す」<<認知地図を早くもちたい
例 次の5つのステップを踏むと、入力画面が表示されます。
○指針3「操作の目的、意味を先に示す」<<なぜそうするのかを知りたい
例 不要な文字を削除します。
KHキーを押してください。
○指針4「具体例を入れる」<<現実との対応をとりたい
例 カタカナのアを入力してみましょう。
○指針5「メリハリをつける」<<大事なものが何かを知りたい
例 さくくじょの「く」を削除します。
製作者(テクニカルライター)が、文章技法や視覚化のリテラシーを踏まえた上で、さらに、こうした心理法則から派生する指針に従って制作することで、ユーザにわかりやすいマニュアルが提供できることになった(と思っている)。
当時は、中で、この提案はかなりインパクトがあった(と思っている)。
いくつかの企業からの依頼で、その企業のマニュアルの評価をしたり、制作のガイドラインを作ったりもした。それらをまとめる形で上梓した「ユーザー・読み手の心をつかむマニュアルの書き方」(共立出版)は版を重ねて20刷までになった。