子どもと教師のための安全教育への提言
ーーヒューマンエラーの心理学からーー
概要**************************
本講演では、安全、安心を子ども一人ひとりの心の問題としてとらえた時に、どんな有効な方策が考えられるかについて、「ヒューマンエラーの心理学」の立場から考えてみたい。
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はじめに;安全教育の課題と領域
●領域
1)ミス、怪我
2)事故
3)犯罪
4)災害
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提言1 潜在リスクを発見する
1) ヒヤリハット体験の報告を収集
ここでこんなヒヤリハットやドジをしてしまったという体験をホームルームなどを通して常時収集して公開する。
例 危険マップの作成
注 ある調査によるとみたことがないが7割
ヒヤリハット情報の共有
失敗わいがや(わいわいがやがや)ミーティング
・明るく ・本音で ・人より状況を
2)ニュースでの事件報道など日頃の危険を参考に、同じことが起こる可能性がないかのチェック
3)それぞれについての発生頻度と重大性について見積もりをする(リスクマネージメント)
例 リスク=発生頻度(確率)x 重大性
3)冒険体験、スポーツの中でリスク認知力、リスク対処力を養う。前者は家庭の責任で、後者は学校や地域で。
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提言2 エラーをより重大な事にならないようにする
「1(重大事故):29(軽い事故):300(ヒヤリハット)」の法則(ハインリッヒの法則)の意味を知り、教師、保護者、学校管理者は、より重大事故へのつながりを遮断する障壁を築く。
そのための物理的な障壁(安全工学的な障壁)としては、次の4つ。心理的的な障壁は、提言3で。
1) 近づけないようにする(ロックアウト)
例 柵で囲む
2) 面倒な手順がいるようにする(フールプルーフ)
例 押してからでないと開かない。許可制
3)順番通りにしないとだめなようにする(インターロック)
例 締めないと電源が入らない
4)より被害が大きくならないようにする(緩和化)
例 ころんでも怪我をしないような厚手の絨毯をしく
5)一つが突破されても次で防ぐ(多層防護)
例 防火壁
6)自然にそうしたくなるようにする(アフォーダンス)
例 押すか引くかがわかるドアのノッブ
いずれも低年齢の子供や高齢者がいる家庭や施設では、必須の仕掛である。
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提言3 メタ認知力をつける
自分を知り、自分をコントロールする力——メタ認知力——をつけて、ミスに強くなる。ただし、これが効果があるのは、小学校高学年から。
1) ミスや怪我や事故はどんなときにどのようにしておこるのかについての知識を豊富にする
例 ヒューマンエラーの心理学の基礎知識
「M(使命)—”P(計画)—D(実行)—S(確認)サイクル”」の枠組みで起こる、4つのタイプのエラー
○使命の取り違えエラー
組織や個人が設定した安全第一という使命が、効率や競争勝利や患者満足などの仕事上の使命を優先したために起こるエラーである。
○思い込みエラー
誤った状況認識によって誤った計画(目標)を立ててしまいそれを忠実に実行してしまうエラーである。
○うっかりミス
実行段階で計画とは違った行為をしてしまうエラーである。
○確認ミス
行為をしたときに、それが計画と一致しているかどうかをチェックすることを怠ってしまうミスである。
2) 内省/反省力をつける
例 4つのタイプのおかしやすさの自己診断チェックリスト
●使命の取り違え傾向度チェックリスト(得点; 点)
1)人に喜んでもらうのが好き( )
2)決まりや手順より、その場にふさわしいやり方でやる( )
3)人に自慢をすることが多い( )
4)競争では負けるのが嫌い( )
5)何よりも時間厳守が大事( )
●思い込み傾向度チェックリスト(得点; 点)
1)直感的判断に頼ることが多い( )
2)理詰めで考えるのは嫌い( )
3)判断に迷うことはあまりない( )
4)人と相談することはあまりない( )
5)何ごとも自分なりに納得しないと我慢ならない( )
●うっかり傾向度チェックリスト(得点; 点)
1)一日一回くらいはひやりハットすることがある( )
2)見落としや聞き間違いが多い( )
3)計算ミスをよくする( )
4)注意が散漫で持続しない( )
5)感情的になることが多い( )
●確認傾向度チェックリスト(得点; 点)
1)寝る前に火の消し忘れや施錠忘れがないかを気にする( )
2)確認の大切さを自覚している( )
3)メモや貼紙をよくする( )
4)ダブルで確認するようにしている( )
5)人に、確認したかと問うことが多い( )
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提言4 危険予知力をつける
1)危険予知力とは
安全の先取りを保証するのが、危険予知力である。いつもとは違ったことをするときには必須
その構成要素は「危険察知力」と「危険回避力」の2つ。
○「危険察知力」
状況の中に潜在する危険を察知し、それへの対処をあらかじめ的確に予測できる力。これにも、2つある。
一つは、「現場に入る前のオフライン危険察知力」。現場に入る前に、想定内の危険を指摘できる力である。KYTでは、もっぱらこちらの予知力の養成を行う。危険との時間的、空間的距離が大きい。
2つは、「現場でのオンライン危険察知力」。今現在行っていることが危険を発生する可能性を事前に察知する力である。最近では、現場力の一つとして、その劣化が指摘されている。危険との時間的、空間的距離が小さい。
○「危険回避力」
必要に応じて想定される危険を回避したり、危険に遭遇した時の対処を考えることができる力。危険遭遇の実体験ができないので、仮想空間での体験をさせる(たとえば、中央労働災害防止協会の「産業安全技術館」)
2)危険予知訓練(KYT)をする
危険予知力、とりわけ、オフラインの危険察知力をつける具体的で有効な方策として、危険予知訓練(KYT)がある。ゲーム感覚で行ううちに、危険の存在するその現場での危険予知力も自然についてくることが期待できる。
例 中央労働災害防止協会発行の子どもKYT
危険満載のイラスト
危険箇所の指摘
どうしたら良いのかの議論
できれば、机上訓練だけでなく、実体験、とりわけ冒険体験の中で身につけられるような機会が用意できると良い。
危険予知訓練の効果には、次の4つがある。
・リスク感覚を鋭敏にできる
・関連する知識を活性化できる
・知識の高度化ができる
・リスク対処を適切にできるようになる
3)冒険体験、スポーツをする
ここでも、危険察知、とりわけ、オンラインのそれを身につけるには、冒険体験やスポーツが有効である。
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提言5 事故傾向予測検査を活用して一人ひとりの特性を把握する
事故傾向性の高い子どもにはそれなりの配慮が必要である。
・ 安全の役割を担当させる
・ 教師のそばにるようにする
・
例 「APP事故予測検査」の概要
「内容」
生活安全 交通安全 注意力 推理・洞察 動作の速さ・安定度 自己統制 社会適応 安全態度
まとめ
安全の大事さは、安全な時には忘れられ、安全が脅かされると思い出される。常時、安全がアピールできるのは、学校教育の現場である。事前安全対策の教育によって、より安心できて安全な学校にしていきたいものである。