●もう一人の自分となじむ
内省したり、反省したりするときに、自分(me;客体的自己)をみつめる自分(I;主体的自己)を意識できるはずである。この「I」が、いわばもう一人の自分(ホムンクルス)である。
ホムンクルスの活動には、自分の心を監視する(モニタリングする)活動と、自分の心を調整する(コントロールする)活動とがある。
普段何もないときには、ホムンクルスの活動を意識することはない。しかし、ひとたび、心の不具合が起こると、ホムンクルスが活動、その時その場で最適な心の活動になるようにする。
とは言っても、それなりに、普段からホムンクルスのパワーをアップさせておく心構えが必要である。
●心についての知識を豊かにする
ホムンクルス力をつけるには、2つのごく当たり前の方策がある。なぜ、ごく当たり前というかというと、青年期あたりからずっとこれまで誰もがそれなりにやってきていることだからである。それを意識的にやることになる。
その2つの方策の一つは、心の領域についての知識を豊富にすることである。やや手前みそになるが、心理学の知識を豊かにすることである。
心ってどんなもの、心はどのように働いているのか、心を強くする訓練や心の落ち込みを回復する方策にはどんなものがあるかなどなど、心理学には豊富な知見が蓄積されている。
それらの知識の有無は、いざというときに、自分の心をモニタリングしたり、コントロールしたりするのに役立つ。
たとえば、集中力が途切れてきて、読んでいることが頭に入らない(モニタリング)。ここで少し休憩を入れよう(コントロール)となる。ここでは、「集中力の持続には一定の限界がある」という心理学の知識が役立っている。まさに、「知は力なり」(F、ベーコン)なのだ。
●反省、内省の習慣をつける
ホムンクルスのパワーをアップさせるための2つ目の方策は、内省、反省の習慣を付けることである。
悪いことをすと、親は教師に「反省しなさい」と言われ続けてきたはずである。それが実は、あなたのホムンクルス力をつけることになっていたのである。
「Meをしっかりと監視してごらん。何が悪さをしたかわかるでしょう」という次第である。そのとき、心理学の知識の有無が内省、反省の質を決める。
たとえば、その時に、ただ、「自分が悪かった」で終わりなら、あまりホムンクルスは賢くならない。そこに、「不安になり、つい攻撃的になってしまった」という認識ができれば、一段高いモニタリングができたことになるし、それに応じたより適切な自己コントロールも期待できる。
こうしたことができるようになるためには、何をおいても、内省、反省の習慣を付けること、さらに、そのための手がかりを活用することである。
表には、その一つとして、セルフ・サイエンスと呼ばれている、自己チェックのリストを挙げてみた。これ以外にも、心理学には、さまざまな心理特性を自己チェックによってはかるものが知られている。そんなものを利用することで、より深く自己をモニタリングすることができるようになれることが期待される。
●3割ルールでホムンクルスと付き合う
ホムンクルスは、四六時中、それが頭の中を占領してしまうような状態になってしまうのは、正常ではない。一日のうちに風呂に入ったりしている時、あるいは就寝前の一時、あるいは日常のヒヤリハット体験をした時などに、「あれ、自分は一体何をしたのか」「今日、あの時、なぜあんなことを言ってしまったのか」を内省、反省する時にこそ、活動するのがホムンクルスである。
ここですすめたいのは、ホムンクルス3割ルールである。日常的に何か頭を使っている時にも、3割はホムンクルスが活動できる余地を残しておくのである。
たとえば、注意の集中でも、すべての注意を注いで仕事をしてしまえば、ホムンクルスが働く余地がない。結果としてひどい疲労状態になるまで仕事を続けてしまうことになる。
問題を解くような時でも、絶えず、それで良いのか、解に近づいているのかをホムンクルスにチェックさせる余地を残しておくのである。