聴き方力アップ
●聴き方と話し方とは一体
前項は、話し方の話。ここでは、聴き方の話。
現実の対面対話では、両者は一体です。連載の都合上、分けて話をしているに過ぎません。共に音声を媒体にしたコミュニケーションですし、その時その場でのコミュニケーションです。違いは、情報の発信か受容かの違いです。
音声による対面コミュニケーションの特徴は、一つには、冗長性が高いことです。名前一つにも、たとえば、「漢字で書くと」「うみやまのうみ」などと、余計な情報が入り込んできます。
しかし、それだけに情報量が豊富になるので、コミュニケーションが豊かになります。同じ音声コミュニケーションの一つである電話でのそれと比較すれば一目瞭然です。これが音声による対面コミュニケーション特徴その2です。
●対面での聴き方は難しいことではない
対面での聴き方は、それほどあれこれと考えることは実はありません。ごく自然に視線をとらえて、子どもの話に関心をもって話を聴いて、うなずいているか、わからないことは質問すればよいだけの話です。
したがって、今回は、これで終わり、でもよいのですが、あえて、子どもの話の聴き方のコツをカウンセリング場面での聴き方をヒントに要点をまとめてみました。
●「傾聴」聴き方のコツその1
傾聴については、耳にタコができるほどお聞きになっているのではないかと思います。相手に共感を示しつつ、相手の話に根気強く耳を傾け、話の内容の確認と反復をする、という話でしす。
たとえば、子どもの「おなかが痛いの」の訴えに、ただちに「飲み薬をあげましょう」ではなく、「おなかが痛いのね」(反復、確認)で、まずは子どもを受け入れる、という話です。
傾聴には、相手との感情的な共感関係を作る、相手の話の内容を確認する、という2つの機能があります。
●「促し」聴き方のコツその2
話を続けさせるための促しは、聴き方でもあるし、話し方でもあります。子どもの話の腰を折らないようにして、相づちをうち、「それで?」と促しのひと言を話の切れ目に入れることになります。さらに、身体全体で子どもの話を聴く、聴きたいということを示すことです。腕組みや反っくり返った姿勢は禁物です。子どものほうに身体を向けて前傾姿勢になります。
子どもの気持ちのままに話し続けてもらうことこそ、聴き方上手というものです。これが意外にできそうでできないのです。子どもの話の終わりまで聴くのがもどかしくなってしまうからです。教師の多忙もありますが、話の途中で、子どもの言い分がわかってしまうことが多いからです。もっともそれは思い込みに過ぎないことがままあるのですが。
「促し」がつい「中止」のサインになってしまうことがあります。注意が必要なところです。
●「言いたいことをつかむ」聴き方のコツその3
子どもの話し方は完全ではありません。話したいことの半分も話せていないかもしれません。話しにくい内容、話したくない内容もあるはずですし、さらに言語表現力の乏しさもあります。
高学年なら、子どもに直接、どうしてほしいのかを聞くこともありますが、低学年になると、そうもいきません。どうしていいかわからないから来たということもあるからです。そうなると、言葉の端々から、あるいはパラ言語(言いよどみ、抑揚、ポーズ、イントネーション)から、さらには、顔の表情や身体のしぐさから、子どもが言いたいことを読みとる必要があります。
また、言いたいことを読みとるには、傾聴の域を出て質問による誘導が必要な場合もあります。「おなかが痛い」なら、どこが、いつ頃からかなどを尋ねることで、言いたいことに子どもと一緒にだんだん近づいていくことになります。一緒にパズル解きをするような感じですね。
●「終わりを明確に」聴き方のコツその4
聴き方上手を演じていると、いつまでたっても話が終わらないことにもなりかねません。医者の3分間面談になってしまっては困りますが、それでも、一人の子どもに毎回カウンセリングのような時間をかけての対話というのも現実的ではありません。
切り上げが大事になります。その際の留意点のいくつか。
①子どもも十分に話した、その結果として、子どもの言いたいことが十分にわかった感触が得られた時。
②いったん、間合いを入れた方がよさそうな場合。たとえば、保護者や担任と連絡してから再度話をしたほうがよいような場合。
そして、必要ならいつでもまた話にこられることを確認して対話を切り上げます。
●「電話やメールから対面へ誘導」聴き方のコツその5
電子技術の進歩は、コミュニケーションのスタイルを劇的に変えました。そのメリットにははかりしれないものがありますが、一方では、とりわけ、子どもにとっては、注意しなければならないことがあります。
顔の見えないコミュニケーションも、入り口、つまり、コミュニケーションの発生時には有効です。したがって、そういう手段を使えることを公開することは大事です。しかし、それから先、立ち入った話になると、決定的に情報が不足します。
対面対話の持っている豊かな情報が削ぎ落とされてしまい、言外の意味がお互いに読みとれません。どうしても、お互いの顔を見ながらの対話が必要となります。
メールによるカウンセリングの実践もあるようですが、それだけで十分満足のいく成果をあげられるとはとても思えません。
電子情報化社会での対面対話の減少による対話スキルの劣化を補ってやることにもつながりますので、ぜひ、心がけていただきたいと思います。
最後に、一部、重複もありますが、カウンセラー・東山紘久著「プロカウンセラーの聞く技術」(???)の目次を挙げておきます。
なお、「聞く」と「聴く」の違いは、「聞く」は相手の言うことを冷静に聞くこと、「聴く」は身を乗り出すほどに積極的に聴くことです。
・聞き上手は話さない
・相づちを打つ
・相づちの種類は豊かに
・相手の話に興味をもつ
・素直に聞くのが極意
・寡黙であれ
・話し手の波に乗る
・共感する