2009年、ヒートアイランド化した東京。
神楽坂にはアザーンが流れ、西荻窪ではガイコクジン排斥の嵐が吹き荒れていた。
破壊者として、解放者として、あるいは救済者として、生き残る少年/少女たち。
これは真実か夢か。
『アラビアの夜の種族』の著者が放つ、衝撃の21世紀型青春小説。
村上龍の「コインロッカーベイビーズ」と「愛と幻想のファシズム」を読んだときの衝撃は忘れられない。近年の村上には言いたいこともあるけれど、少なくともこの二作だけで、彼は文学史に燦然と光り輝く。
日本という“弛んだ”国家を、異様な出生の若者たちが、破壊し尽くし、あるいは純粋であるがゆえに危険な姿に変貌させてゆく……古川日出男の新作は、まさしく村上の二作をトレースしたかのようだ。
そのうえ「愛と~」ではまがりなりにも近未来ポリティカルスリラーとしての体裁を最後まで保っていたのにくらべ、「サウンドトラック」は、首都東京を壊滅させるその手法が“映画”(!)と“ダンス”(!!)であるあたり、狂いっぷりは村上を上回る。
カテゴリーは一応SFということになるらしい。ヒートアイランド化し、季節が「夏」と「非夏」しかなくなった東京の描写にはセンス・オブ・ワンダーが確かに存在する。しかし、主人公の兄妹が無人島でサバイブしながら成長する描写は徹底してリアルで……
この破綻したといっていい構成の謎はあとがきで明かされる。実はこの大長編、三つの小説を合体させ、後半はほとんど書き下ろしなのだという。しかし古川は、単に合体させただけでなく、リマスターし、リミックスし、そしてラップ化して破壊力を増進させている。
現代日本に絶望するあなたなら手にとってみるべきだ。東京を殲滅させる兄妹に、激しいカタルシスと羨望を感じるはずだから。傑作。