世の中には変わった教師がたくさんいる。新聞や雑誌に不祥事や醜聞が載らない日はないくらいだ。でもなかには、まったくの善人で、しかも有能であるにもかかわらず、なぜか異常な事件にまきこまれてしまう不運な教師も存在する。
ある中学校に勤務するS君もそのひとり。修学旅行の引率教員として東京に行ったときのできごと。生徒たちが自由行動の時間だった。彼は何を思ったか、当時世間を騒がせていたオウム真理教の総本部を見学しようと独りで青山に向かった(この時点で、ちょっと変わった人なのだが)。修学旅行の引率といえば、昔は不自然なくらいキチンとした服装で固めていたものだけれど(なんせほら、お上りさんだから)、さすがに近頃は動きやすいラフな格好でいることが多い。しかしそんなファッションで青山に行ったことがS君の不幸だった。
『ラフなファッションで青山総本部前をウロウロしている若い朴訥そうなヤツ=オウム信者』という当時の既成概念にとりつかれた警察関係者に(まわりのマスコミはそのことをよくわかっていて、派手目なファッションできめていた)S君はたちまち取り囲まれ、いきなり羽交い締めされたのだ。
「てめーオウムだろ!」
「ち、違いますぅ……」
しかしなかなか信じてもらえなかった彼は、ジャンパーのポケットに突っ込んでいたあるものを取り出した。
「こ、こ、こういう者です」
それは、生徒がつくった修学旅行のガイドブックだったのである(笑)。やっとこさ解放された善人のS君は、結果的に生徒に救われたことになる。
“修学旅行”で“学習”をしたのは、引率教員の方だったというお話。お勉強もたいがいにね、S君。