「テスカトリポカ」で度肝を抜かれた佐藤究の新刊。それぞれ違った味わいの八つの短篇。オープニングがこのわけのわからないタイトルの、なんとSF的警察小説。量子力学を利用した爆弾という、どうにも理解しにくい存在が日米政府を翻弄する。
思いきり簡略化して説明すると、あのシュレディンガーの猫(死亡する確率が1時間で50%の猫が箱に入っている。その猫が生きているか死んでいるかはふたを開けてみるまで確定していない)の設定に、映画「ダークナイト」でジョーカーが仕掛けたふたつの船の命題(善良な市民が乗る船と、囚人たちが乗る船があり、一定時間内にどちらかが爆弾のスイッチを起動して相手を沈めなければ、どちらも沈められてしまう)をシェイクして……すいません全然説明になってませんね。
「ジェリー・ウォーカー」はCGアーティストのお話。深緑野分の「スタッフロール」を読んだばかりなので味わい深い……と思わせてこれは一種の芸術論ですかね。
他にも、夢野久作を角川文庫(表紙絵は米倉斉加年でした)で読み倒した人間にはたまらない「猿人マグラ」、シリアルキラーの作品に執着する画商を描いた「スマイル・ヘッズ」など、高レベルの作品ばかり。さすがだ。