JAWS
スティーブン・スピルバーグ監督 ロイ・シャイダー主演 (’75 米)
正直、この映画を観たことがない人(いないとは思うが)は幸せだと思う。これからJAWSを観る経験ができるのだ。
私は高校1年のとき、大火で焼けたグリーンハウスの、例によって一番前の席で、封切り初日(1975年12月6日)に、しかも2回続けざまに観たのである。とにかくあまりに面白くて。
「アメリカン・グラフィティ」の号で紹介したかったのは、DVDにはロイ・シャイダーやリチャード・ドレイファスがJAWSの撮影状況を述懐する特典映像がついていて、これがまことに興味深かったということ。
署長ブロディの奥さん役をやったロレイン・ゲイリーは、60才をこえているのに“さぞや昔は”といったいい女ぶりが健在(当時38才。この映画を作ったMCAの社長夫人だったから、ま、大金持ちではあるわけだ)でうれしく、一番最初に鮫に喰われたあの女の子が、すっかり元気なオバサンになっていて笑えた。
意外だったのは、スピルバーグがこの映画のことを「好きな映画だが、もう思い出したくない」と語っていること。それほどに過酷な撮影だったのである。
劇場用映画としては2作目(デビュー作は「続・激突!カージャック」。「激突!」はテレビムービーだった)という新人だったスピルバーグにとって、初の大作となったこの映画が失敗すれば、それからの彼のキャリアはなかったろうからプレッシャーはかなりきつかったようだ。
撮影していた島から陸に戻ると、監督交代や撮影中止になりそうだったのでクランクアップまで一度も島を出なかったというエピソードなど、現在の帝王ぶりからは想像もつかない。
ロバート・ショウ演ずる船長クイントが、船首にロープを切るために使った鉈を打ち込む場面があって、珍しく無駄なシーンだなあ、と思っていたら、当初の脚本では、クイントは鮫にその鉈で挑みかかり、双方が力つきて死んでいくという「白鯨」そのもののラストだったことが明かされる。なるほどねえ。
見直してつくづく感じるのは、音楽の使い方の巧みさ(例の♪ザァザン!という音楽を、スピルバーグは最初ギャグだと思ったそうだ)である。
あのフレーズが流れるたびに鮫が現れることに観客が気づいたあたりで(逆に流れなければ鮫は来ないと油断したあたりで)いきなり襲撃させる意地の悪さ。
そして徹底して鮫を見せない工夫である。血しぶきをあげて子どもが喰われるシーンや、ロバート・ショウが噛み殺されるシーンが印象的なのでつい誤解してしまうが、鮫が出てくるシーンは、実はほんの少しでしかない。
内情を明かされると、機械仕掛けの鮫がトラブル続きで、そうせざるを得なかったらしいのだが、それでも「浮かび上がる樽」とか「岸に激しく近づいてくる桟橋の残骸」とか「いなくなった犬」等で観客に鮫を“想像”させる手口など見事なモノ。やるなあ。
例の生首のシーンでは、やっぱり心臓がバクバクさせられたし、こいつは10年後ぐらいにもう一度観よう。また楽しめそうだしね……その頃まで、心臓が無事だといいんだが。
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