監督黒沢清、主演役所広司。現在では世界有数の恐怖映画コンビだけれど、組んだのはこの作品が最初。
伝説の映画なので、はたしてどんな作品なのかと身構える。
おっといきなり大好きな蛍雪次朗登場。彼はホテルで売春婦を殺し、喉元をX字型に切り裂く。その現場にもの憂げな表情で現れるのが刑事の高部(役所広司)。彼は傷痕を見てまたかと思う。この、X字の殺人はくり返されていたのだ。しかし加害者たちや被害者たちに連関は見えてこない。
観客には、この時点ですでに間宮という記憶喪失の青年(萩原聖人)が絡んでいるであろうことが示されている。
この映画は最初「伝道師」というタイトルがついていて、オウムがらみのせいで(そんな時代)「キュア(癒し)」と改題されている。ふたつのタイトルがあるおかげで、これらの殺人がどんな意味を持っているかが推理できる。
ネタバレを覚悟で言えば、もちろん間宮が加害者たちを“伝道”し、彼らの心の奥底にあるなにものかを呼び起こし、殺人に至らしめていることがわかってくる。
生意気な後輩にいらついている巡査(でんでん)、男社会に絶望している女医(洞口依子)らは間宮によって覚醒し、殺人に至る。そして、心を病んだ妻(中川安奈!)にやさしく接する高部もまた……
大映資本で撮影された、思いのほかまっとうでメジャーな恐怖映画でした。しかし、ラストのファミレスのシーン(よーく見てくださいよ)に象徴される、きわめて抑制された語りが絶妙な作品でもある。
仲がよさそうに見える小学校教師が妻を惨殺する場面が「伝道」サイド。役所広司がラストで見せる穏やかな表情こそが「癒し」サイドというわけか。いやはや面白かった。ぜひ。
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