「目打ち貸してくださーい」社会科教師が事務室に来て。
「メウチ?」
「これですよこれ」
「これ……千枚通しじゃないか」
「それはそうだけど、目打ちって言いません?業界用語かなあ」
お裁縫関係でよく使う言葉らしいのだ。かくのごとくわたしは家庭科全般に弱い。学校事務職員になっていなかったら、ピンキングばさみだのボビンだのチャコだのの存在すら知らずにいただろう。だいたい運針すらできないぶきっちょ野郎ですから。
そんなわたしが「仕立屋探偵」なるサブタイトルのミステリを読む……無謀でしょうか。いやいや、とても面白かったです。
考えてみれば、その世界に通じていないと面白がれないようだと医療ミステリや、あらゆる犯罪小説が楽しめなくなってしまう(わたし、犯罪は確かやってないと思います)。特に、川瀬七緒は法医昆虫学捜査官シリーズでおなじみ。あの圧倒的な昆虫学への傾倒を、お裁縫方面に敷衍したら……
というより、川瀬は文化服装学院の出身でデザイナーでもあるので、むしろ本領を発揮するエリアなのかもしれない。
小さな仕立屋を営む(うさんくさい本業は別にあるのだが)桐ケ谷京介は、該博な服飾の知識と、美術解剖学によって、その人物が着ている服の様子で病気や暴行の有無まで見抜く能力をもっている。そんな桐ケ谷は、テレビの公開捜査番組に映し出された10年前の少女殺害事件において、被害者が着ていたワンピースを見て不審を抱き……
ファッションの変遷、織りの様子などから警察が気づかなかった少女の身元に迫っていく桐ケ谷。用語のほとんどをやっぱり理解できませんでしたが、こりゃすごい。続篇を希望します。今年、家庭科教師の要望でミシンを買うことになったのはそのせいではありません。
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