磯崎憲一郎を二冊。わたし、彼の作品が好きなんです。作中の登場人物と作家、そして読者との距離感が絶妙、というか。
「鳥獣戯画」は、高名な文学賞を受賞した(怒りを内包している)作家の語りからスタートし、彼のむかしの恋人、怖いぐらいに美しい女優、タイトルの鳥獣戯画を蔵する高山寺を再興した明恵(みょうえ……彼もまた怒りを抱えた人であったようだ)と語られる対象が次々に変遷する。
私小説のように見えて、しかし自らを見つめる視線がまことに醒めています。そしてそれは、天下の名僧への視線も同様であるあたりが憎い。
「蒙昧~」は大阪の万国博覧会を、やはり自分との関わりから語り始めながら
・五つ子の父親になってしまった放送局員
・二十数年間ジャングルに潜み、敗戦をしらなかった元日本兵
これらを例によって巨視的に、同時に微細に描いていく。わたしの世代だとどれもおなじみの事件。1950年代、60年代に生まれた人ならこれだけでもたいそう面白く読むことができるはず。
なかでも興味深いのは70年代の金権スキャンダルにまきこまれる政治家たちと、それを静かに見つめるホステスのエピソード。現代の、安倍一強・菅やり放題のうんざりするような政治状況を考えると、三角大福の時代(わからない人はググってみよう)は、確かに苦くはあったけれども愚かではなかったとつくづく思う。蒙昧なのは、どちらなのかが痛切に理解できる。谷崎潤一郎賞受賞作品。
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