発売1ヶ月で4巻合計して254万5千部。シリーズ累計が1200万部というお化け小説。出版界で今年もっとも景気のいいお話は文句なく「十二国記」だ。
約18年ぶりの長篇。短編集は出ていたものの、あまりに久しぶりなので前の作品とどう連関しているのかさっぱり忘れてました。でもそんなことが気にならないくらいの面白さであることは保証します。
「魔性の子」に始まる十二国記の世界観に付き合い始めて二十年以上になる。その間、勤務校の図書館に次々に購入しつつ(笑)、さあ新作だ。
今回は十二の国のうち、北東に位置する戴国のお話。正当な王が何らかの理由で行方が知れなくなり、偽王が立つ。このお話が周到なところは、この偽王がライバルだった真の王を排除したにもかかわらず、国政への興味をまったく失ったように見えること。それはなぜか。
同世代である小野不由美が、これまでよりも冷徹な眼で人間を見つめるようになったからこその展開か。で、困ったことにこの偽の王もまた魅力的な人物なの。
この物語は、政治小説であり、山岳小説であり、架空世界の紀行文でもある。そして圧倒的に戦記なのだ。これだけの濃密で重い物語がベストセラーになるのは、これまでのシリーズがコンスタントに受け入れられていたからだろう。
十二国記は、その時々の現実に対する小野不由美の批評が(うっすらとではあるが)仕込まれている。国を統べるとはどんなことなのか、権力に歯向かうにはどのような覚悟が必要なのかが静かに語られ、このシリーズが少女小説スタートだったことを忘れさせてくれます。世界のルールを監視する“天”が、実はさほどに万能でも寛容でもないあたり、渋い。
読み終えて、しみじみと満足。長い物語に伴走してきて、ほんとうによかった。
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