PART1はこちら。
原作は天藤真のミステリ。あ、お若い方は彼のことを知らないだろうな。
角川文庫で彼の著作が80年ころに大量に(といっても寡作な人なので長篇は十作しかない)刊行してくれたので熱中。しかしまもなく彼は鬼籍に入ってしまう(83年)。
切れ味鋭く、同時にほのぼのしたスタイルは現在でも、いや現在こそうけると思う。創元推理文庫にたくさん入っています。ぜひ。「大誘拐」以外では「鈍い球音」がおすすめかな。
さて「大誘拐」。週刊文春が選んだ20世紀の国産ミステリ第一位の座はダテじゃない。ストーリーは、ちんけな三人組が和歌山在住の大富豪(なにしろ所有する山林面積が大阪府よりも広いという設定)のおばあちゃんを誘拐する。ここまでは、まあよくある話。しかしここからお話は大きくねじ曲がっていく。
おばあちゃんは誘拐犯たちに問う。
「ところで、身代金はなんぼや」
「五千万や」
「見損のうてもろては困りますな」
ということで誘拐された側が身代金をつりあげるのだ。その額はなんと百億円!
以下、この映画の勘所は
・和歌山県警本部長はまことに優秀。三人組のずさんな計画は本部長に次々に喝破される。
・しかしこの犯罪は途中から周到なものに変容していく。
つまり、この誘拐事件においては主犯が交代するのだ。被害者のおばあちゃんが主犯。要するに狂言誘拐じゃないかと指摘されそうだが、展開はそう単純ではない。
いくら富豪とはいえ、百億をキャッシュですぐに用意するのはむずかしい。だからおばあちゃんの息子や娘は、山林を売って金をつくろうとする。
そこへ、画家としてのんきな生活をしている四男が(金持ちの家にはかならずひとりはいますよね)「売るよりも、山林を担保に銀行から融資を受けた方が得やないか?」と、急にしっかりするのがおかしい。以下次号。
大誘拐―天藤真推理小説全集〈9〉 (創元推理文庫) 価格:¥ 907(税込) 発売日:2000-07 |
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます