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さて、それではどうしておばあちゃんは自分の家に大損害を与えるような指示をだしたのか。ここが「大誘拐」の肝心要の部分。
ということで話は最初の脱税につながります。
おばあちゃんはこう考えたのだ。まもなく自分は死んでいく。相続税は莫大なものになるだろう。そこで、この事件によって山林を整理し、あるいは借財をかかえることで節税することができると。ましてや、なんと身代金の百億は、ある理由でおばあちゃんにまるまる戻っているのだ。
なんて強欲な!国家はそんなことは許しませんよ!
しかしおばあちゃんは欲得づくでそんな行動をとったわけではなかった。戦死という形で国家はおばあちゃんから三人の子を奪っている。そんな相手に、相続税という形で法外な貢献をしてたまるか、というわけ。おばあちゃんの国への敵がい心は本物だったのである。
ここにこそ、戦争や反逆にこだわりつづけた岡本喜八が天藤真の原作を映画化しようとした核があったはず。スカッとします確かに。もっとも効果的な方法で、つまり国にとってもっとも痛い方法で一種の復讐は完遂する。
おばあちゃんを演じた北林谷栄、本部長の緒形拳はいずれも名演。風間トオルなどの三人組の拙劣さ(というか演技以前の問題)を補ってあまりある。事件の背景を静かに語るラストシーンの味わいなど、他の役者には絶対に出せない味。
天本英世、中谷一郎など、岡本映画の常連も気持ちよさそうにオーバーアクト。そして、主役のふたりにしても岡本喜八にしても、みんな故人になってしまった……。
いやいや、元女中頭をはちゃめちゃに演じた樹木希林と、ゴリさんこんなに沈着な名刑事だったのに「ケイゾク」や「SPEC」では弾けちゃいました竜雷太がまだ健在だ。
それにしても、岡本は、仲代達矢(彼もまた喜八お気に入りの俳優)、真田広之(同じく)、緒形拳(もちろん)で山田風太郎の「幻燈辻馬車」を企画していたという。それはぜひとも見てみたかったかも!金さえなんとかなれば、誰からも親しまれた喜八(と奥さん)は実現にこぎつけられただろうに……合掌。
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