第31話「古畑、歯医者へ行く」はこちら。
シリーズ中、もっとも変則的で、もっとも哀しい回だ。古畑が(ということはつまり三谷幸喜が)視聴者に向かって「本当は最終回にもってこようと思っていたエピソード」と話すのがうなずける。本間勇輔の音楽も、クールなモダンジャズ調で渋い。
なぜ変則的かといえば、この回にはまず犯人が存在しない。
ストーリーはこんな感じ。山荘に若い妻と暮らす官能小説家(津川雅彦)は、妻(三浦理恵子)が編集者(細川茂樹)と浮気していることを知りながら、しかし静かに日々を過ごしている。だが彼は飼っている犬に、ある行動を習得させていた。小学校の同級生である古畑が山荘をたずねたその夜、彼は仕事場の小屋に向かい……
三谷はよほどこのエピソードに愛着があるのだろう。最終回向けといいながら、他の回といくつかリンクをはっている。
作家の犬は「死者からの伝言」に出てきた小石川ちなみの飼い犬、万五郎であり、
この事件を解決した後に遭遇するのが「灰色の村」事件であり、
作家の紹介で古畑が訪れるのが「古畑、歯医者へ行く」のクリニックなのだ。
人生の先が見えてきたことで、かえって恥辱に耐えられないとする作家の呻きを津川雅彦が渋く演じている。この人、デビュー当時は大根役者として有名だったなんて信じられます?
多くの殺人事件にたずさわってきた古畑は、だからこそ人間がなぜ生き続けなければいけないかを柄にもなくナマな言葉で語る。同級生二人が、子どもの頃に帰って数字遊びに興じるラストは屈指の名シーン。カラオケで斉藤由貴の「卒業」を絶唱する西園寺もいい味だしてます。
第33話「絶対音感殺人事件」につづく。
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