主人公が坊や哲と呼ばれることでもわかるように、軍人の息子で、世間からドロップアウトした阿佐田自身がモデルになっている。牌文字が使われ、とにかくどうイカサマをかますかの勝負が延々とつづく。けっこうダークで厭世的な小説なので、これで麻雀ブームが起こったというのがちょっとよくわからない。まあ、読んだ人たちはみんな一度は積み込みを練習したことでしょうが。
わたしが若いころに角川文庫が(黒鉄ヒロシが装丁で)阿佐田の作品をどんどん刊行し始め、麻雀のなんたるかもわからないくせに、あまりに面白くてほぼ全巻読破。最高傑作は短編の「左打ちの雀鬼(ジャンキーとかけている)」と「東一局五十二本場」(タイトルだけで笑えるでしょ)かな。
「麻雀放浪記」は登場人物のキャラがとにかく立っていて、今でもドサ健や出目徳、女衒の達などの名がすぐ思い浮かぶ。
この作品の監督に和田誠を起用したのはどんな経緯だったのだろう。二作目の「怪盗ルビイ」のようなおしゃれな作品ならともかく、終戦直後のバクチ打ちの話でくるとは……
いやはややっぱり優秀な人は違う。どんなに救いのない話でも、クールに決めてくれます。雀卓のまわりをすべるように回るカメラ(イレブン麻雀ですか)、トリックなしで役者たちにマジでイカサマ技をやらせるなど、仕掛けも万全。
意外だったのは役者の演技がみなすばらしかったことだ。和田監督の本領はそっちなの?とすら。真田広之がアクション俳優を脱したのはこの作品だし、松田優作がキャンセルされて鹿賀丈史に変更になったドサ健も渋い。そして誰よりも高品格!人生の運を最後の九連宝燈で使い果たすシャブ中の演技はすばらしいのひとこと。この年の演技賞総なめだったのは納得。
ただ、新人監督だから不安もあったのだろう。マキノ雅弘ゆずりの映画達者、澤井信一郎を脚本に迎えたのは功罪相半ばではないだろうか。加賀まりこが米兵に向かってつぶやく
「男は殺して、女からは盗むのかい」
というセリフや、女衒の達(声がめちゃめちゃいい加藤健一)が、女衒という商売をもっているゆえに勝負に負けるあたりのしめっぽい味は、確かに映画に貢献はしていても、和田誠の作品にフィットしていたかは微妙。
しかし、マージャンなどにまったく興味がないのに、本の中身は延々牌の並びが続くので、数ページ読んだだけでやめてしまってました。
その後本だけはずっと本棚でほこりをかぶってましたが、今思うとこんな本読む中学生もどうかと。
そうだよね、中学生ぐらいだと好きな対象のものは
全部ほしがるわけだ。
まあ、読み通して牌文字だけで「配牌が不自然」と見抜く
ようになると危ないわけなので結果オーライ。
色川武大名義の「狂人日記」を耽読するよりもオッケー。
ありゃあ傑作なので大人になってからならオッケー。