北村薫の「空飛ぶ馬」(創元推理文庫)というミステリをご存じだろうか。おそろしく地味な作風であるにも関わらず、刊行当時大きな反響をよんだのは、北村が“誰も死なない”ミステリを構築してみせたから。
・幼稚園にあった遊具の木馬がある一夜だけ移動したのはなぜか(空飛ぶ馬)
・喫茶店で砂糖をひたすら紅茶に入れ続ける女性たちの意図するものとは(砂糖合戦)
……といった日常の何気ない謎を“わたし”という女子大生と噺家の円紫師匠が解いていく趣向。
北村に始まるこのテの【日常ミステリ】あるいはイヤな言い方だが【癒し系】の流れは、以降加納朋子や倉知淳、そして宮部みゆきに受け継がれている。ぜひお試しを。
※北村薫は当初性別さえ明らかにされない覆面作家だった。十代の女性心理をここまで微細に描けるのだから当然女流だろう、と多くの読者は思ったのだったが、実は(当時)現役の高校教師だったのである。しかもオッサン。ま、みごとなオチでした。創元の装幀画はあの高野文子。
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