「映画でも見に行こうか」
「そうね」
子どもがみんな家を出てしまった夫婦なので、こんなことが増えていくのかな。映画館は鶴岡まちキネ。映画は「リンカーン」。スピルバーグ好きのわたしとはいえ、いかにも名作、いかにも偉人伝、って感じなのでちょっと気が重くもある。主演がダニエル・デイ=ルイス(え。お父さんが「野獣死すべし」のニコラス・ブレイクだったなんて初耳)なので、いかにも入魂の演技だろうしなあ……
見終わって呆然。まさかこんなにすばらしいとは。途中からわたしは涙ボロボロ。なめてて悪かったスピルバーグ。おそれいりましたダニエル。
歴史に暗いわたしとて、ゲティスバーグの演説、劇場での暗殺ぐらいはなんとか知っている。でも、なんとこの映画では演説は伝聞でしか語られないし、暗殺シーンはひとひねり加えられている(だからこそむしろ哀しい)。スピルバーグの節度と気合い、そして自信が感じられる。誰よりもうまく(そして実はお安く)映画を仕上げる達人であるスピルバーグは、今回はその、いかにもなうまさを封じているのだ。
描かれるエピソードも渋い。映画的に盛り上がるであろう奴隷解放宣言ではなく、その宣言を実効させるための憲法修正が下院で勝つかの駆け引き。
清廉潔白なだけでなく、ロビイストを使って裏工作をすすめる政治的腹芸がいいし、常に最適なたとえ話をもちだして(それはリンカーンの前半生が波乱と苦渋にみちていたことの証左でもある)、敵である民主党と、共和党内急進派を切り崩していく過程がぞくぞくするほど面白い。
もちろんその切り崩しはすべて成功するわけではないし、「たとえ話はうんざりです」と拒否される場面もちゃんと用意してある。そしてだからこそ、長身をもてあまし、苦難をすべて自分で抱えこんでやつれていくリンカーンが魅力的に見える。傑作。
鶴岡から帰る車中で、この映画がいかにすばらしいかを妻は力説。あのー、おれもいっしょに観てたってことを忘れてない?
なんせこのGW中、一大イベントがあったもんで。
長女が彼氏を連れてあいさつに来るという・・・。
いやーー、相方が、異常に無口過ぎて、気まずさ1000倍でした。
こんな娘ですいません!なんですが、あんなんでいい!とおっしゃってくれる奇特な方でしたので、のしつけて差し上げることと相成りましたです。
ということで、この映画。
あ、私スピさんのシリアス部門は評価してますよ!すごく好き。
「ミュンヘン」なか、ぞくぞくするほど好きです。
商売っ気抜きに作った作品の素晴らしいこと。
それができるのは、商売上手で、たくさんの人に喜ばす映画を作れるからこそかもしれませんがね。
修正13条にきっちり焦点を当て、まったくぶれずに作ったのが、お見事だったと思います。
「ナウ!ナウ!ナウ!」は、「今でしょ!今でしょ!今でしょ!」だよなあ。。。
やけに気合いを入れているのは、その彼氏の気持ちが
痛いほどわかるからです。
そんなあいさつのときにペラペラ如才なくなんて
しゃべれるものですか(遠い目)。
わたしのときなんて義父から満州での戦争の話を持ち出され……
ま、それはともかくリンカーン。よかったですねー。
感情をオモテに出さない人間が、一瞬の激昂で
「ナウ!ナウ!ナウ!」
とやるから効くのよね。確かに「今でしょ」だ(笑)