子どもたちを主人公にした五つの物語。
伊坂幸太郎はあとがきで自信作であることをほのめかしている。なるほど傑作ぞろい。読み終えて、あたたかい気持ちになれます。小説を読むとはこんなにも幸福なことなのかと思いながら読んでました。
冒頭の「逆ソクラテス」は特にすばらしい。先入観にとらわれがちなオトナに一泡吹かせるために企まれる数々の仕掛け。少年と少女はそしてどんな大人になったか……
構図としては「アメリカン・グラフィティ」や「スタンド・バイ・ミー」に近い。その後、登場人物たちがどのような人生を送ったかを読者に想像させるエンディング。ネタバレになっちゃうからアメグラの方のラストを紹介すると、主要なキャラ4人の静止画に字幕がかぶさる。
ジョン(ポール・ル・マット)は1964年に飲酒運転の巻き添えとなって死亡。
テリー(チャールズ・マーティン・スミス)はベトナム戦争中の1965年に行方不明になる。
スティーブ(ロン・ハワード)はモデストに留まって保険外交員となる。
カート(リチャード・ドレイファス)は作家として現在カナダで暮らしている。
……彼らに思い入れたっぷりの観客は、人生というものの冷厳さに粛然となる。ああ思い出しただけで泣けてくる。
もちろん、「逆ソクラテス」の五つの物語はおとぎ話じゃないかという批判もあるだろう。こんなにうまくいくはずないとか、こんな偶然あるわけないとか。
しかし、あらゆるテクニックを用いて、子どもだけでなく、ラストである人物を救う展開にもっていった伊坂の離れ技は認めてほしい。
小説を読むことは楽しい。きっと、小説を書くことは(苦行でもあるだろうけれど)すばらしいことなんじゃないかと思わせてくれました。まちがいなく今年のベスト。
そして、子どもにとって教師とはいかに大きな存在なのかと痛切に。業界人必読。
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