あからさまなまでに“現代”が仕込んである。元禄のお話なのにね。
複雑な関係にある隣り合うふたつの藩。戦争(関ヶ原)以前から愛憎相半ばし、邪悪な目的のために拉致すら行われている。指示しているのは、あるコンプレックスを持った男……どう考えても日本と北朝鮮がモデルになっていて、拉致された方の真っ白ではなかった過去もきちんと描かれている。拉致した方にしたって、自分の住む藩がどこかまちがっていることをうすうす感じながらも、それなりの生活が行われていることを淡々と描いてある。
このふたつの藩の境界で、村が根こそぎ破壊される。「怪物」の登場だ。
時代小説の作者として、常に気を払った言葉づかいをする宮部のことだから、本来であれば「化け物」の方が自然な用語だと思う。しかし宮部はおそらく意図的に怪物という表現を選んだ。なぜなら、この怪物はある「意志」にもとづいて存在するからだ。人間の愚行によって生まれ出たものなのである。あえて断定。原発を象徴しているに決まっている。
フランケンシュタインのモンスターの物語をベースに、しかし日本のまっとうな時代小説を紡いでみせる宮部みゆきは相変わらずすごい。逆に言うと、ここまでていねいな語り口でなければ、強烈なテーマゆえに軽くあしらわれてしまう危険性さえあっただろう。
こんなところで引っぱり出すのも失礼な話なのだけれど、評判の「村上海賊の娘」(和田竜)や、池永陽の「占い屋重四郎江戸手控え」など、形として時代小説の体をなしていない、読みおえるのがつらかったのを続けざまに読んだので、なおさら宮部みゆきのすごさを実感。
新聞連載に引っぱりだこの宮部だけれど、まあ、この内容だと原発礼賛の読売新聞での連載はまず無理で(笑)、朝日を選択したのは正解だったのではないでしょうか。
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