わたしはディズニーのいい観客ではない。「ファンタジア」や「ピノキオ」などの全盛期を知らず、昔の遺産を食いつぶすだけだった低迷期にこども時代を過ごしたため、ディズニーとはすなわち温厚そうな口ひげのじいさんが出てくるテレビ番組「ディズニーランド」(日本テレビ)が思い出されるだけ。あの番組にしたって、ミッキーマウスやドナルドダックの短篇アニメはともかく、実写のドキュメンタリーだったりするとがっかりしたなあ。
わたしはピクサーのいい観客でもない。「トイストーリー」には確かにどぎもを抜かれたし、CGでは困難と言われた水の世界を「ファインディング・ニモ」で精緻に描いた技術力にも驚かされたが「どうしてCGでなければならないのか」に、たとえば「モンスターズ・インク」は答えていなかったような気もして。
この二社が仲たがいをし、提携解消にいたった経緯はよくわからない。でもこの「Mr.インクレディブル」を見るかぎり、どう考えても今回の騒動はディズニーにとっての不幸だろう。この作品ぐらいのレベルの映画がこれからもピクサーから生み出されるのだとしたら(なにしろ打率10割だからなあ)、失ったディズニーの痛手ははかりしれない。断言する。それほど、最高の娯楽映画だった。60年代の「ナポレオン・ソロ」や初期の007、そして「電撃フリントGO!GO!作戦」などのテイストをたっぷりふりまき、しかもCGでなければ創造し得ないアクションシーン満載。長男ダッシュと悪役のチェイスなど、「ジェダイの復讐」でジョージ・ルーカスがめざし、そして失敗していたレベルを軽々とクリアしている。“あまりの激しさのために観客は笑うしか選択肢が無くなってしまう”ほどのすさまじさ。いやー笑った。
日本版の配役もすばらしい。特に主役の吹き替えは、わたしが秘かに日本一うまい役者と思っている男優がやっているので、そのうまさをぜひ味わってください。百恵ちゃんはいい男と結婚したなあ。
※その後ピクサーはディズニーとの関係を修復し……というかディズニーのアニメ部門はピクサーの連中が牛耳ることとなった。さもありなん。