事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「鍵泥棒のメソッド」 (2012 クロックワークス)

2012-09-18 | 邦画

Kagidorobouimg01運命じゃない人」「アフタースクール」で観客を完全に騙しきった内田けんじの新作。で、主演が堺雅人、香川照之、広末涼子。期待するなという方が無理。さっそくフォーラム東根で拝見。

この人の映画の場合、ストーリーを書けないので紹介がむずかしい。なにをやってもダメな男(堺)、伝説の○○屋コンドウ(香川)、相手もいないのに無理やりに結婚に突き進む女(広末)の関係がこんがらがって……

あれ?伏線はりまくりで、時制を前後させまくった演出はどこへ。意外にストレートなコメディ……かと思ったらやっぱりかましてくれました。○○屋の部分がだいじね。

ただし、客を喜ばせるその方法が、騙しよりもハートウォーミングなラブストーリーの方に重心はうつっているので注意。その分、作りこみがすごい。三人の性格をその筆跡に代表させたり、ラストに至ってやたらに高級車を登場させた意味がわかったり。

ネタバレになるのですみませんだけど、あるところにパウル・クレーが登場したりね。あの“方法”は、ある種の人々の夢の具現化だ。

気持ちよく見終わってからしかし気づく。もう少し深いひっかけはなかったかと。

実はこの作品にはもうひとり重要な人物が登場する。冒頭に“殺される”人物の愛人。森口瑤子が演じるこの疲れた中年女性の本音がどこにあったのか。魅力的な彼女の「一撃」でこの映画は終わるので、たいそう考えこまされた。これから見る人は、ぜひともご意見をお聞かせください。にしても、こんないい女と別れるかねトヨエツ。まことに、大きなお世話ですが。

Yokomoriguchiimg01

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「短歌ください」 穂村弘編 マガジンハウス

2012-09-17 | 本と雑誌

4840138648 短歌って、ほんとうによくわからない。たとえば新聞の投稿歌壇があるじゃないですか。選者によってチョイスはもののみごとに違っていて、ほとんど重なることがない。多種多様な評価軸があるということなのだろう。ただ、穂村弘によってセレクトされた「短歌ください」(雑誌ダ・ヴィンチの短歌募集コーナーの書籍化)は、いずれも傑作ぞろい。気に入った歌に付箋をつけていたら一束使い切ってしまった。

こんな感じ。

逢うたびに君の葬儀の挨拶を考えながら覗く横顔

旗をふる人にまぎれて旗をふるだれも応援しませんの旗

「日本野鳥の会」にいたという人よ わたしをかぞえたことありますか

たっぷりと砂糖をいれたヨーグルト鈍い爆発音が聞こえた

つむってもひかりが入ってくるのです。うすい瞼はお嫌いですか?

イカ墨のパスタを皿に盛るように洗面器へと入れる黒髪

このはさみで家のあかりをひとつずつ四角く切り取るはらはら散らす

泣きながらワサビの小袋に納得す「こちら側のどこからでも切れます」

ペガサスは私にはきっと優しくてあなたのことは殺してくれる

カタツムリ踏み潰すのに似ているね そんなところにキスをすること

君は君の匂いをさせて眠ってる同じシャンプー使った夜も

忘れるな明日はみんな黒い服決めたんだもう蝶か蛾になる

今顔が新種の猫になってもいいや歩道の白だけ歩く

今はただ並んで歩くオオカミの末裔もまたサルの末路も

マヨネーズ時計ではかるゆうぐれの時間は赤いところへ降りる

ヴォリュームをゼロに落としたラジオから一番好きな歌が聴こえた

肩車君にされつつ電球をきゅるきゅる回す顔横にして

窓からは東京タワー 口からはフライドチキンの骨が出てくる

目をあけたままで眠ったことにする人形だから許される嘘

殺傷力ナンバーワンはこの方です!キーボード所属エンターキーさん!

「大丈夫、お前はやれる」拒否された10円玉をきつくねじ込む

ねぇ、あしたふたりで下剤飲もうかと日射しのなかできみは笑った

「罪」という鞄を持ったたくさんの男の人が揺れている朝

君じゃなく苦手な上司の口癖が移ってしまう Enterを押す

「ぬいぐるみみたい」その猫の瞳に君は食えない肉に映ってる

まっすぐにぶつかってきてくれるぶん雨は君よりやさしいものだ

楽園じゃないと言ったろ血へどまできらめくただの死なない国だ

いつの日かわたしに殺されることを怖れるような父の「くん」付け

「あたしも」と必ず後から手を挙げる心のなかで、生きてたことも

きみのくび切取線が描かれてた大丈夫だよわたしがまもる

完璧な死体と夏が誤解するほど僕たちは抱き合っていた

……穂村の解説も鋭い。ことば、音、漢字とかなのバランスへのこだわりなど、よき歌人であることはよき批評家でもあるのがよくわかる。短歌でわかったのはそこだけです。わたしは歌人にはなれそうもないなあ(実はわたしが即席につくった歌もひとつしのびこませてます。恥ずかしー)。

短歌ください (ダ・ヴィンチブックス) 短歌ください (ダ・ヴィンチブックス)
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2011-03-18

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ビブリア古書堂の事件手帖2&3

2012-09-14 | ミステリ

1106155734 1作目の特集はこちら

美形、年上、内気、巨乳の、どこをブローアップしてくるかと思ったら巨乳でした(笑)。

古書には、持ち主たちのドラマが包有されているという発想は確かにすばらしい。
ただ、小路幸也「東京バンドワゴン」シリーズと同様に、次第に息苦しく感じ始めたのも確か。こういう、穏やかな世界は中年男には合わないのかなあ。

ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫) ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)
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ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫) ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)
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MR.BRAINよたび

2012-09-13 | テレビ番組

Mrbrainimg03 PART3はこちら

納屋のような建物から、ボロボロの姿で女性が出てきて、青空を見上げる……顔はまだ映されないが仲間由紀江である。

その後、都議会議員(なんと大沢逸美!てっきりあめくみちこだと思ってました)が銃殺されるが、現場で犯人はお弁当を食べていた……不条理きわまりないスタート。とてもそそられます。古畑任三郎「動く死体」において、なぜ堺正章は楽屋でお茶漬けを食べたのかを連想。

犯人はもちろん仲間由紀江なのだけれど、この回の眼目は『彼女は多重人格者なのか』だ。十五年間も拉致監禁され、テレビである映像を見た彼女は、自分をこんな環境においやる原因をつくった担任(のちに都議会議員になっているわけ)とクラスメイトたちを追いつめる。

多重人格なのかを見極めるために、九十九はちょっとしたトリックを披露する。こちらも古畑任三郎に木村拓哉がゲスト出演したときと同じ(きっと意識したのだと思う)「赤か、青か」で。

うーん、しかしこれはどうだろう。立証はおよそ無理な話だし、監禁された十五年への復讐の念は視聴者にとても説得力があるので、九十九がやったことは“よけいなこと”に思えてしまう。

ただし、ここで見せた仲間由紀江の演技は相当なもので、ストーリーの弱さを補ってあまりあった。加虐的な人格のときよりも、むしろよわっちい人格のときの方がはるかに怖いことをみごとに。

で、肝心の木村拓哉。美男であることが記号のように語られるレベル(つまり、スターですわね)の彼は、その特権を利用して、あいかわらず「過剰な自然さ」を表現している。まことに、けっこうだったと思う。

企画と編成と多すぎる予算に翻弄されたなかでも、キムタクは徹底してキムタクだった。さんざんいちゃもんをつけたけれど、このタイプのミステリに、これにこりずにまた出てね。わたし、好きなんですミステリもキムタクも。

Mrbrainimg02

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MR.BRAINみたび

2012-09-12 | テレビ番組

Mrbrainimg06 PART2はこちら

演出にヒットメーカーの福澤克雄、脚本は「TRICK」などの蒔田光治を用意して、このミステリ(ですよまちがいなく)は展開された。「ガリレオ」が物理学をバックボーンに推理すれば、九十九はもちろん脳科学。

「人間は嘘をつくときに右上を見てしまう」

など、ほんとかよと思うような小ネタが数多く用意してあって、それだけでも楽しい。だけどもちろん脳関係だけで事件のすべてが解決できるわけはないので、ドラマ的なうねりでブーストする必要があるのに、どうもそこが弱い。

たとえば初回のオープニング。失恋した広末涼子を九十九は彼なりの優しさで励ます。彼女とのやりとりがあったために九十九はある事故にまきこまれてしまうので、広末は一種の運命の女なのである。ところが、彼女は二度とドラマには登場しない。

脳を負傷してから審美眼が思い切り捻じれてしまうのは彼女の影響か、などと深読みもできるのにそうはならない。まあ、高視聴率をマークできれば再登場もありだったかもしれないが、単なる顔見せに終わっていたのは残念だった。

刑事役の香川照之は九十九に向かって「頼むよセンセー」と吐き捨てるように語る感じがよかった。「探偵物語」で、成田三樹夫が「図に乗るなよタンテー」と吐き捨てるパターン。

でもその助手役である水嶋ヒロが単なるコメディリリーフに終わっていたのももったいない。どこかで激情を爆発させるシーンがあればしどころがあったろうに、ほんとうの爆発に吹き飛ばされるのが見せ場だったのはかわいそう。

最初の事件において、ある人物の犯罪を立証するためにMRIを使うのは仕方ないにしても、家族を亡くしたばかりのその人物を、その場に連れてくる理屈がちょっと足りない。亀梨和也の回では、“透明人間”が恋人を襲うという仮定はすばらしい。でも途中のしりとりネタがわかりやすすぎるのが難点。ほら、やっぱり時間帯がまずかったんだと思う。だいたい、この回の犯人は近ごろファナティックな役ばかりやるので最初から悪者なのが丸わかりです(笑)。

このシリーズの白眉は仲間由紀江の回。犯人像は……以下次号

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MR.BRAINふたたび

2012-09-10 | テレビ番組

Mrbrainimg05 PART1はこちら

設定は突拍子もない。

ホストとして軽~く生きている金髪青年が、不慮の事故で脳を負傷する。手術後の彼は、脳科学者として才能を発揮するようになっている……脳それ自体がまだまだ現代科学でも解明されておらず、しかも脳のほとんどが使用されていないことだけはみんな知っているので、そりゃ、こんなこともあるだろうと納得はする。なにしろキムタクが演じているので、なんでもありなキャラもOK。

「漢数字の九十九と書いて、ツクモといいます」

名前は九十九龍介。ハジメじゃなくてよかったですね(お若い方にはわかりづらいか)。彼は脳が発達したと同時に美的感覚がずれてしまっており、いわゆる美人よりも、美的に不自由な方々に魅かれるようになっている。みんな一斉に「岩鬼かお前は!」と突っ込んだでしょう?

そんな彼が、科学警察研究所に配属される。まずここで、ちょっとくらっと来る。確かにハイテクを希求する組織なのだから未来的インテリアなのは致し方ない。でもここまでやるか。

1億円だかをかけてつくったセットは確かにみごとだけれど、ドラマを醸成する場になっていないのである。妙に広々としすぎていて、演出もしどころがないみたいだ。確か「ラブジェネレーション」のときの広告代理店のセットがあまりにもチャチで気が遠くなったのと逆のパターン。

用語がむずかしいし、脳科学は専門的すぎるから、アニメキャラで解説を入れた気持ちもわからなくはない。月9や日曜劇場と違い、8時スタートのドラマは視聴者がまだ落ち着いていないので、過剰ともいえるわかりやすさは必然だったとも……でもね、でもこのドラマの内容とオンエアの時間帯は絶対にミスマッチだったと思う。これはどうしても9時オンエアにすべきだったのだ。編成が、まず失敗している。そして……以下次号

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「MR.BRAIN」(TBS)

2012-09-09 | テレビ番組

Mrbrainimg04 視聴率オタクとしては、近年の、特に地上波の視聴率低下には驚かされっぱなし。もちろんそれはBS、CS、ネットなどの影響や、HDDなどに番組を大量に録りだめすることが容易になったことが背景にあるだろう。

でもリアルタイムで見ることが必須事項のようになっていた「ドラえもん」や「サザエさん」の現在の視聴率は……いずれあらためて特集するとして、まずはキムタクのことを。

そんな時代に、ひとりだけ別格の存在が木村拓哉。視聴率を稼いでくれることはもちろん、その実績ゆえに“木村拓哉でドラマを制作する”のはテレビ局にとって巨大なイベントになっている。

で、その切り札をゲットしたTBSが用意したのは、警察庁管轄の組織ではたらく脳科学者が事件を解決するという……どう考えても「ガリレオ」を意識したのが見え見えの設定な「MR.BRAIN」。

キャストがすごいですよ。レギュラー陣に綾瀬はるか、水嶋ヒロ、香川照之、大地真央、トータス松本、平泉成。お笑い系からも田中裕二と設楽統という渋いところをピックアップしている。

それに輪をかけて豪華なのがゲストたち。市川海老蔵、広末涼子、ユースケ・サンタマリア、近ごろ大変らしいGACKT、小雪、亀梨和也、相武紗希、佐藤健、木村多江、東儀秀樹(びっくり)、仲間由紀恵、上川隆也……ピンで主演がはれるメンツをこれだけそろえている。TBSの気合いがわかろうというものだ。逆にいうと、絶対に失敗できないのでこれだけの保険を掛けた、ともいえる。

しかし結果は残念なものになった。視聴率は想定以下、海老蔵とからめて続編の構想もあったろうにその予定もない。

はて、どうしてうけなかったんだろう。DVDで全話消費して(半日かかりました)、いくつか気づいた点があるのでそれを次号で

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日本の警察~その49「警官の条件」 佐々木譲著 新潮社

2012-09-08 | 日本の警察

51lmig9idhl_sx230_ その48「新宿鮫Ⅹ 絆回廊」はこちら

「警官の血」の続編。うーん、確かに素晴らしい作品だったけれど、あの神経症ギリギリの三代記のつづきはちょっとしんどい……あら、稲葉事件のモデルとなった悪徳警官、加賀谷の方が主人公になっている。しかも彼を警察が呼び戻し、ヒーローにまつりあげるとは。

しかし佐々木らしい苦みのあるオチも用意してあるので正直ホッと。だって加賀谷の方法論を組織が肯定してしまえば、警察は結局なにも変わらなかったということだし。

和也がその方法論をどう否定し、どう継承していくかの続編ならまた読んでみたい。

その50「機龍警察 自爆条項」につづく

 

警官の条件 警官の条件
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2011-09
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巨人軍改革PART2

2012-09-06 | スポーツ

20111216 そんな経緯もあってまとめられた「巨魁」「『巨人軍改革』戦記」なのだから、ナベツネへの怨嗟でこりかたまった書なのかと思ったら、むしろ自分がどの方向へ巨人を持っていこうとしていたかの設計図だったのは意外。

たとえば「マネーボール」のときに紹介したセイバーメトリクス。打点や失策数よりも、出塁率、長打率の方が選手の価値判断基準になりうるという考え方は、すでに導入されていました。先進的に動いたのは巨人と日ハム。この両チームが現在両リーグで首位を争っている現実はなかなか興味深い。

清武氏が自分の成果だと主張しているのが、支配下選手枠から外れた「育成」制度だ。本来、球団が契約する選手は70名以下と協約で決まっているが、球団がそれ以上の選手を“育成選手”として“育てててもよい”とする制度。

ドラフトで指名する場合、スカウトはどうしても完成度の高い選手を志向するが、体力的・技術的に未完成でも、プロ野球選手として成功する可能性のある若者を(育成だからお安い値段で)雇ってしまえということなのだ。

どうも意地悪な言い方になったけれども、山口や松本哲のような成功例があり、育成でなければ彼らがプロに入ることもなかっただろうから説得力はある。

裏話も満載。荒削りだった光星学院の坂本を1位指名に推したのが、みずからもドラフトに翻弄された慶応出身の大森スカウトだったとか、巨人の新人評価ポイントからすると、早稲田の齋藤よりも中央の沢村の方がはるかに高かったとか(宮圀も上回っていた)、まことに興味深い。

今回の乱の背景に、本来は社会部(清武氏はここに所属していた)が強かった読売新聞が、ザ・政治記者であるナベツネによって牛耳られた歪みがあるのは確か。ただ、有能な新聞記者だった清武氏の著書が、今回の騒動がどうあれ、とても面白いことも確かだった。一読をおすすめします。ナベツネが連載(週刊ベースボール)を打ち切れとした原稿が、面白くないわけがない。

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巨人軍改革PART1

2012-09-05 | スポーツ

41ud5hd0oyl わたしは野球が大好きだし、なかでも巨人というチームがとにかく好き。長嶋によって刷り込まれ、江川騒動の際には、だからこそ応援しなきゃ!とまでこだわってきた。

ただ、どうしても我慢できなかったのが、渡邉恒雄という存在が巨人どころかプロ野球全体をゆがめていることだった。彼の気持ちのなかに、野球への愛どころか知識もないことはよく知られている。名著「菊とバット」で有名なロバート・ホワイティング(なんとナベツネの英語の家庭教師だった)はこう語っている。

「彼はナガシマという名前を知っている以外、野球については何も知らなかったし、興味を持とうとも思わなかった。彼の興味の中心は政治で、中曽根は日本のJFKになる、といった話ばかり聞かされた」

……彼の好きなスポーツは相撲だけだったというのである。よく、理解できます。そうでもなければ、読売の興行だけを意識したスター選手集めや新リーグ構想といった、いま思えば愚劣な経営方針(と言えればだけれど)がなぜ存在しえたか、いまのお若い方には想像もつかないのではないか。

現在86才になるこのおじいちゃんは、しかし予想をはるかにこえてかくしゃくとしているそうなので、しばらくはこの独裁体制が続くのであろう、なにしろ巨人や球界だけでなく、マスメディアを牛耳っているのだから手ごわい……まさか、事実上彼が任命した球団代表から“告発”されるとは思ってもみなかった。

ところが、この清武(元)代表による告発内容はどうもわかりにくい。岡崎ヘッドコーチの留任が決定していながら、ナベツネが江川を招へいする人事を勝手に決めたことが“コンプライアンス上問題がある”というのである。あの会社ではそのくらいのことは日常茶飯事だったのでは?なんで今さら……と、この問題自体にあまり興味をもっていなかったの。

でも、「巨魁」「巨人軍改革戦記」と清武氏の著書を読んで、単純だけれど考えが少し変わった。この人は、少なくとも球団経営を近代化しようとだけはしていたのだ。以下次号

巨魁 巨魁
価格:¥ 1,600(税込)
発売日:2012-03-16
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