保津川下りの船頭さん

うわさの船頭「はっちん」が保津川下りの最新情報や、京都・亀岡の観光案内など、とっておきの情報をお届けします。

雪が降り積もる日、保津川下り

2005-12-22 14:20:02 | 船頭
北の大陸からの大寒波が日本列島を
すっぽり包んでしまった今日の
京都は朝から何処も一面の雪景色と
なりました。

私達の仕事場である亀岡の保津川にも
この冬最高の雪が降り積もっています。

もちろんこんな日でも私達の仕事は営業しています。

こんな日の出航は準備の段階からなかなか大変です。

準備の為、係留してある船に乗り込むとまず船内に
積もった雪を払い除ける作業から始めます。
船内に乗られたお客さんを濡らさない為、雪を残さず
綺麗に拭き取らねばなりません。(手が痛いくらい冷たい~です)

それが終わると船周囲の氷を棹で割り、船の進路
を確保するのです。
こんな日は船が係留してある川溜りの水面が凍っているのです。

係留されている船は、舳先を岸側に向けて留めてあり、
動かすには、一度後ろ向けにバックします。
この時、氷が張っていると平面構造の後部からの
バックしても氷に固められ、まったく動きません。
そのため、船の周りに棹を突き立て何箇所も穴をあけて
氷を砕き進路を作ってから船を始動させます。

そこで船を正面に向け、あとは前進します。

船の正面(舳先)は三角形なので、進むごとに氷を割っていけます。
船が進む度に、水面の氷が「バリ、バリ」と音をたて
ますまるで小さな南極観測船になった気分です。

しかし南極観測船と異なることは、船を進める動力が
全て船頭の手動という点です。
氷の圧力はなかなかのもで、進めるのに相当の力が入ります。
乗り込んだ時は寒さで震えていた体も、乗船場に船を
つける時には汗が出てポカポカしてきます。

このように雪の中の川下りの仕事は本当に大変です。

船が本流を流れてからも冷凍庫のような寒さ厳しい
渓谷地の中を進みます。
船頭は全て船室外での仕事ですから体は芯から冷えます。

でも、その見返りとして自然が私達に見せてくれる
渓谷の景色、それは最高です。

広い大地と深く切り立つ山々に、真っ白な雪が
降り積もり、黒く光る川の上に船が浮んでいるだけです。

白黒のコンストラストがくっきり浮かび上がるモノクロームの世界。
それが‘雪の保津川の風景’です。

水墨画の世界に迷うい込んだ様な幻想的な世界の演出。
静まりかえった空間に響く船を漕ぐ櫂の音。

幻想にすら錯覚する様な世界を、今、私達だけが独り占めしている。
この景色とこの空間は今の私達だけのために存在してしています。

今この時、私はなんと贅沢な時間を過ごしているのだろ?
この瞬間、今までのきつく辛い寒さも癒され、
心に暖かい火が灯るのを確かに感じるのでした。

芸術ともいえる自然の演出、雪の川下りも悪くないですね。