放送大学の教授会には、各地の学習センターの所長先生方が、全員ではないが出席される。
おおきに御足労であるが、東京を訪れる良い機会にはなるのだろう。
先般、高松でお世話になった山崎先生も御出席で、気さくな笑顔で御挨拶くださった。
教授会終了後、今春卒業した院生の論文投稿の助言をしているうちに帰りが遅くなり、南天高い三日月を仰いで駅に着いたところ、ホームでまた山崎先生らの御一行に出会った。
「へぇ、家まで一時間以上か、香川やったら県外に出てしまうよ」
「それでも近い方ですよ、本でも読んでればすぐです」
と返したものの、おっしゃるとおり、首都圏の生活はどこかが大きく歪んでいる。
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家では、緑あざやかな豆料理が卓上やま盛りになっている。
左から順に、グリーンピース、スナップえんどう、ソラマメ、両親からの田舎の恵みだ。
奥方は充実の表情で肩をほぐす仕草、この午後いっぱい、豆の殻剥きをしていたのだ。
ありがたきは天地、ありがたきは親、ありがたきは奥方、ただ楽々と食うは息子ら(と僕)
父の信念で農薬を使わないから、傑作なことも起きる。野菜と一緒に青虫が運ばれてきて、段ボールを開いた途端に御挨拶などは珍しくない。
昨年の春には、母が送ってくれた庭の花にカマキリの卵が紛れ込んでいたことがある。ほったらかして孵化するかどうか分からないが、イチゴの入っていた透明の容器に念のため隔離した。実はこの容器の見えないところに、ちょっとした隙間があったのだ。
「ぎゃあぁ~生まれた!」
というメールが家から家族全員に発信されたのは、2012年4月23日のお昼前。
体長7mm 、親と全く相似形の若葉色のカマキリが無慮数百匹、部屋の一画をうようよと拡散し始めていたのである。
厄介なことに容器のすぐ下には自動血圧計があり、マンシェットのマジック・テープがむき出しになっていた。
その中に迷い込んだ若きハンター達を、慈悲の心豊かな奥方がケガなどさせずに救出しようとする作業の涙ぐましいことは、想像するに余りある。念のために言えば、奥方は昆虫恐怖とは言わぬまでも、決してムイムイが好みではなかったのだ。
奥方の頭の中ではデュカスの『魔法使いの弟子』のメロディが、『ファンタジア』の映像と共にぐるぐる回っていたという。
弟子のミッキーが、見よう見まねでホウキに魔法をかけて水汲みを肩代わりさせたはいいが、魔法の解き方が分からずあたりが洪水になってしまう。せっぱつまって斧でホウキを叩き割ったところ、その破片が無数のホウキになって数百倍の勢いで水汲みを始めるという、あの場面だ。
お気の毒さま・・・
http://www.youtube.com/watch?v=av7AfVOLPf0
カマキリたちの一部はベランダのプランターへ逃走し、残りは近所の緑道脇へ放してやった。
成長したカマキリは大した捕食者であること、周知の通り。あの前脚でガッキと蝉を横抱きにし、すさまじい声で鳴くのも構わずかぶりつく様などは圧巻だが、これだけの卵を一度に産むという事実は、その大多数が親になるまで生き延びられないことを意味する。
マメの双葉よりも細く柔らかい、猛き親の似姿たちよ!