散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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箴言の金言 ~ 怒りを遅くし、おのれの心を治めよ

2014-01-23 10:44:04 | 日記
2014年1月23日(木)

 怒りをおそくする者は勇士にまさり
 自分の心を治める者は城を攻め取る者にまさる
 (箴言 16:32 口語訳聖書)

あるいは

 怒を遅くする者は勇士(ますらを)に愈(まさ)り
 おのれの心を治むる者は城を攻め取る者に愈る
 (同、文語訳)

金言だ。僕の生涯の課題だ、できないもんな。
昨日もできなかった、いささかヘコんでしまう。

ところで・・・

 忍耐は力の強さにまさる
 自制の力は町を占領するにまさる
 (同、新共同訳)

何ですか、これは。
ダメだ、ぶちこわしだ。この方が正しいの?
正しくたってダメだ。

だから本当はヘブル語で読めないといけない。間に合いそうもない・・・

言葉の紳士(淑女?)録 005: へべれけ、ロハ、破瓜病

2014-01-23 07:31:44 | 日記
2014年1月21日(火)

 「へべれけ」という言葉の響き、不思議で面白い。あらわす実態は、僕らの現場では面白いでは済まないけれど。

 「あたし、ほんとにヘベレケになるまで飲んでましたよね」

とQさん。

 ヘベレケなんてもんじゃないでしょ、ずいぶん心配しましたよ。
 朝、起きてみたら大腿部にひどいケガをしていたとか、ヒーター抱えて飲みながら寝ちゃって、脛にでっかい低温やけどを作ったとか、つねられたとしか思えない黒あざが全身に無数にあるのに、どこで仕入れてきたか覚えてないとか・・・子供二人を遺して、あなたが事故死するんじゃないかと本当に心配しました。
 そのあなたが、半年ほど前からピタリとお酒を止めましたね。
 「先生が心配するから・・・」
 と照れくさそう。ウソでも嬉しいですよ、一対一の言葉のアプローチで乱用レベルの過量飲酒が止まったなんて、少なくとも僕はこれまで経験がなかった。何があったにせよ、依存症の一歩手前で引き返せたのだ。命を拾ったね。

 次なる課題は、シラフの人生に生きる意味を見出すことですよ。簡単じゃないけど、きっとできる。酒が止められたんだから。

***

 で、ヘベレケの語源なんですが、例によって本当のところは分からない。
 ただ、うがって面白いと思うのが下記の説で、Yahoo 知恵袋に寄せられた回答(2005年3月10日)がよくまとまっているようだ。

★ 語源は、なんとギリシア語で、しかもかの(ギリシア神話)が元になっていると言う説が現在の所、有力だとされている。(Hebeerryke:ヘーベーエリュエケ・ヘーベーリュエケ)と発音し、意味は『ヘーベーのお酌』。「ヘーベー」と言うのは、ゼウス神とヘーラー神との間に生まれた青春を司る女神の名前。<雑学庫[知泉]>より抜粋、『希臘羅馬神話』(木村鷹太郎)の説による。
 『方言俗語語源辞典』(山中襄太、校倉書房1970)によれば、「納得のいく語源説を出しえない現在、いちおうこの説を参考とせざるをえないであろう」とのこと。
http://gogen-allguide.com/he/hebereke.html

 結句の態度が慎重で良いね。URLは「語源由来辞典」のものだが、そこに下記の付記がある。
★ ・・・へーべーのお酌が「へべれけ」に転義した由来は未詳、へーべーにお酌してもらった神々は、喜んで何倍も飲み干し泥酔してしまったと考え、へべれけになったといわれる。★ この説は正確な語源とされておらず、へべれけに近い擬態語には「へろへろ」「べろべろ」「べろんべろん」など数多くあるため、それらと同系と考えるのが妥当であろう。

 同感だが、それにしても「へべれけ、って、何でそういうの?」と訊かれて「それはギリシア神話の・・・」と答えた、博学なホラ吹きがいたことは間違いない。いるんだよ、ホラ吹きは、たとえばね・・・

***

 「ただ(無料)」のことを「ロハ」と言う、と聞かされても、若者はそれ自体を知らないだろう。僕はこれを『罪と罰』の江川卓訳で知った。ラスコーリニコフ一家が、ドゥーニャの婚約者ルージンと決裂する場面で、母娘がペテルブルグへやって来る時の荷物を、親切な御者が「ロハで馬車に乗せてくれた」と母プリへーリヤがいうくだりである。
 こういうことは記憶の底にこびりついて、40年後も古びない。(申命記 8:4)

 で、ロハは何でロハというか?
 「ただ」を「只」と書き、これを分解すればロハ、これが正解だ。

 ところがここに知恵の回るホラ吹きがいて、同級生に「何でタダをロハと言うの?」と訊かれ、即座に答えた。
 「先立つイがないからだろ」
 これも若い人向け解説が要るかな、「先立つもの(=金)がない」のと「イロハのイがない」というのを引っかけたのだ。

 よく考えると思いませんか?しかも訊かれた瞬間に!
 このホラ吹きは、高校三年間をほぼ完全に共に過ごしたRという友人だが、社交ということを全くしない御仁なので、至近に住んでいるのにもう何年も会っていない。ともかく上記の逸話は、R自身と言われた女子と双方からウラをとったから確実である。こんなことが即座にペラペラと口から出る頭の構造は、いったいどうなってるんだろうね。しかも、彼らが中学2年か3年の時なんだよ、ませガキめ!
 「ヘベレケ」ギリシャ語説を唱えた犯人も、おおかたRみたいな頭の良いホラ吹きだったのだろう。

***

 ヘーベー('Ηβη)については、もうひとつ知るところがある。
 ドイツ精神医学の中で古くは Hebephrenie と呼ばれ、今は統合失調症の hebephrenic type として名を残している疾患がある。これは紛れもなく Hebe(ヘーベー)に由来する命名で、統合失調症の中でも思春期に発症し、陰性症状を主体とする型を指している。
 主として発症時期に着目した命名と思われるが、びっくりするのはその日本語訳だ。漢文素養の豊かな明治・大正の学者 ~ たぶん呉秀三あたりだろう ~ が、ギリシア古典の向こうを張ってひねりを加え・・・

 破瓜病

 と訳したのだ。読めますか?
 破瓜(はか)、である。読めた上に意味も知ってるというのは、豊かな教養人か相当の物好きだね。
 破瓜すなわちウリを破る(ツメと読むな!)は、物の本によれば思春期(特に女性の)を表す言葉だそうだ。ナゼそうなるか、ここにまたひとつの判じ物があるんだが、これは少々隠微な(淫靡な?)話にわたるから、当ブログの品位を保つため敢えて伏せる。面接授業では、この解説に1分かけることで受講生の覚醒度がぐっとあがるんだな。

 それにしても偉大な呉先生、これは罪作りな訳だった。破瓜型は女性に多いというわけでもないんだからね。
 僕としてはインビな解説を披露したうえで、「名称として固定しちゃってるから仕方ありませんが、頭の中では『破瓜型=思春期型』と読み替えておいてください」と伝えるようにしている。


「酒壺を持つヘーベー」(Wikipedia より)