明石真(あかしまこと)『体内時計のふしぎ』光文社新書673
時間生物学というのかな、この手の話は誰にとっても興味深いところだが、その道の最前線で活躍しているらしい筆者による、分かりやすい解説書だった。暮れにサンタにもらって一読。睡眠障害はもとより体内時計と密接な関係があり、気分障害がそのまたイトコ筋だから、仕事上も興味深いところ。
ただ、この著者は国語はあんまりできない人らしく、それをちゃんとカバーしない編集者の責を大いに問いたい。ただ原稿を受けとって印刷に回すだけなら、編集者なんて必要ない。
***
最大のポイントは、こういうことだ。
生命発祥以来、約40億年の進化のプロセスの中で、生物は太陽を中心とする自然のリズムに同調することで適応を果たしてきた。そのための基本メカニズムが体内時計であって、これは個体レベルだけでなく細胞レベルでも認められる生存の基本ツールである。
ところがエジソン以来の夜間照明の進歩 ~ 白熱電球の発明者はエジソンではなく、イギリス人ジョゼフ・スワンだそうだが ~ は、人の生活環境を劇的に変えてしまった。以来まだ100年余りである。
40億年かけてしっかり固定された体内時計と、ここ100年激変した照明環境が、当然ながら深刻なミスマッチを起こす、その結果が各種の健康問題だというのである。
その健康問題の中に前述の睡眠障害・気分障害が含まれるのは当然として、糖尿病やガンなども上がってくるには驚いた。
少し前に、「加齢と共に起床時間が固定してきた、要するに適応の柔軟性を欠いてきたのだろうが、年を取るのも悪いことではない」と書いたが、そのことを確認する思い。無理が利かなくなったなら、無理を止めるに限る。
横井さんや小野田さんは、この括りでは超健康な生活を送ったわけである。
以下は例によって抜き書き。
P.36
睡眠学者の研究によると、現代日本人の2割は不眠を患っており、約7割は睡眠になんらかの問題を抱えているといわれています。
P.80
現代という時代は「光」に関してまさに過渡期にあると言えます。パソコンやスマートフォンの画面にも使われているLEDが台頭してきた今こそ、まさに私たち自身が生み出した文明の利器を正しい知識で正しく使えることができるかどうかが問われています。(ママ)
白色のLED電球は従来の蛍光灯よりも青色の波長を多く含んでいます。つまり、体内時計に作用する力がさらに強いと言えます。今までの蛍光灯と同じように使っていれば、体内時計の夜型化がさらに進み、深刻な事態が生じるでしょう。
P.114
今や、WHO(世界保健機関)の関連組織によって、夜勤はガンのリスクとして、とても程度の高いカテゴリーに分類されるようになりました。どれくらい高いリスクと考えられているかというと、喫煙やアスベストが含まれるグループ(発ガン性があると結論づけられているグループ)の次にランクされているほどです。
P.123
日本における気分障害の総患者数は2000年頃から一気に増えてきました。この時期は日本の経済状態が悪化している時期にあたり、気分障害が経済苦と関係が深いことはよくいわれていることです。一方、この頃は、メールやインターネットがちょうど普及してきた時期でもあります。つまり、夜型生活、あるいは夜間の光にさらされる環境が進行することで、体内時計の夜型化の進行が加速してきた時期とも重なっていると考えられます。
P.136
また、これとは別に、一日中、明るい環境で飼育した妊娠中のサルを使った実験があります。恐ろしいことに、生まれてきた子ザルの体温リズムが顕著に乱れていただけでなく、さらにこの子ザルは低体温症であることがシメされています。(中略)
最近、低体温症の子供が少しずつ増えてきていると言われています。(後略)
P.141
このように、活性酸素を無毒化する機能において約24時間のリズムつくり出せる細胞体が生存に有利であったと考えられます。このリズムを備えている細胞の場合、太陽が昇ってくる頃には、活性酸素の無毒化機能を十分に高めておくことが可能なので、DNAの損傷を和らげることができるのです。
繰り返しますが、このリズムはほぼすべての生き物に共通に存在することが見出されており、実は体内時計の原型として機能したと考えられています。
P.144
私たちの体のリズムというのは、私たちが自然のリズムで生活することを前提としてプログラムされています。逆に言えば、当たり前のことですが、現代のような24時間社会に適応できるように私たちの体はプログラムされていません。そうした機能を備える必要もなかったはずです。
P.165
夜型にずれないように体内時計を調節するには、「朝」が肝心になります。まず、屋外で朝日を30分以上しっかり浴びるのが効果的です(太陽光線を直接目に入れるととても有害なので、直視はいけません)。朝日を数分間だけ浴びれば良いというものではなく、やはりこれくらいの時間が必要になると思われます。室内にいても十分な照度の光を浴びることは難しいので、やはり外に出る習慣が必要になってくるでしょう。また、カーテンを開けて眠ることで、差し込む朝日が体内時計の朝方への修正を助けてくれることが期待できます。さらに、先に述べたように、朝食が朝日の作用を助けてくれるので、バランスよく栄養をとるのが無難でしょう。
(石丸註:この文脈では食事内容の栄養バランスよりも、内容にかかわらず朝食をとること自体による、体内時計の朝型化効果の方が重要であるように思われる。)
最後に、P.40~42の要約:生活習慣病の4つの原因
① 食習慣(動物性脂肪摂取量の急増)
② 運動不足
③ 心理的ストレス ~ 現代型の
④ 体内時計と夜行(光)性社会環境のズレ
以上
時間生物学というのかな、この手の話は誰にとっても興味深いところだが、その道の最前線で活躍しているらしい筆者による、分かりやすい解説書だった。暮れにサンタにもらって一読。睡眠障害はもとより体内時計と密接な関係があり、気分障害がそのまたイトコ筋だから、仕事上も興味深いところ。
ただ、この著者は国語はあんまりできない人らしく、それをちゃんとカバーしない編集者の責を大いに問いたい。ただ原稿を受けとって印刷に回すだけなら、編集者なんて必要ない。
***
最大のポイントは、こういうことだ。
生命発祥以来、約40億年の進化のプロセスの中で、生物は太陽を中心とする自然のリズムに同調することで適応を果たしてきた。そのための基本メカニズムが体内時計であって、これは個体レベルだけでなく細胞レベルでも認められる生存の基本ツールである。
ところがエジソン以来の夜間照明の進歩 ~ 白熱電球の発明者はエジソンではなく、イギリス人ジョゼフ・スワンだそうだが ~ は、人の生活環境を劇的に変えてしまった。以来まだ100年余りである。
40億年かけてしっかり固定された体内時計と、ここ100年激変した照明環境が、当然ながら深刻なミスマッチを起こす、その結果が各種の健康問題だというのである。
その健康問題の中に前述の睡眠障害・気分障害が含まれるのは当然として、糖尿病やガンなども上がってくるには驚いた。
少し前に、「加齢と共に起床時間が固定してきた、要するに適応の柔軟性を欠いてきたのだろうが、年を取るのも悪いことではない」と書いたが、そのことを確認する思い。無理が利かなくなったなら、無理を止めるに限る。
横井さんや小野田さんは、この括りでは超健康な生活を送ったわけである。
以下は例によって抜き書き。
P.36
睡眠学者の研究によると、現代日本人の2割は不眠を患っており、約7割は睡眠になんらかの問題を抱えているといわれています。
P.80
現代という時代は「光」に関してまさに過渡期にあると言えます。パソコンやスマートフォンの画面にも使われているLEDが台頭してきた今こそ、まさに私たち自身が生み出した文明の利器を正しい知識で正しく使えることができるかどうかが問われています。(ママ)
白色のLED電球は従来の蛍光灯よりも青色の波長を多く含んでいます。つまり、体内時計に作用する力がさらに強いと言えます。今までの蛍光灯と同じように使っていれば、体内時計の夜型化がさらに進み、深刻な事態が生じるでしょう。
P.114
今や、WHO(世界保健機関)の関連組織によって、夜勤はガンのリスクとして、とても程度の高いカテゴリーに分類されるようになりました。どれくらい高いリスクと考えられているかというと、喫煙やアスベストが含まれるグループ(発ガン性があると結論づけられているグループ)の次にランクされているほどです。
P.123
日本における気分障害の総患者数は2000年頃から一気に増えてきました。この時期は日本の経済状態が悪化している時期にあたり、気分障害が経済苦と関係が深いことはよくいわれていることです。一方、この頃は、メールやインターネットがちょうど普及してきた時期でもあります。つまり、夜型生活、あるいは夜間の光にさらされる環境が進行することで、体内時計の夜型化の進行が加速してきた時期とも重なっていると考えられます。
P.136
また、これとは別に、一日中、明るい環境で飼育した妊娠中のサルを使った実験があります。恐ろしいことに、生まれてきた子ザルの体温リズムが顕著に乱れていただけでなく、さらにこの子ザルは低体温症であることがシメされています。(中略)
最近、低体温症の子供が少しずつ増えてきていると言われています。(後略)
P.141
このように、活性酸素を無毒化する機能において約24時間のリズムつくり出せる細胞体が生存に有利であったと考えられます。このリズムを備えている細胞の場合、太陽が昇ってくる頃には、活性酸素の無毒化機能を十分に高めておくことが可能なので、DNAの損傷を和らげることができるのです。
繰り返しますが、このリズムはほぼすべての生き物に共通に存在することが見出されており、実は体内時計の原型として機能したと考えられています。
P.144
私たちの体のリズムというのは、私たちが自然のリズムで生活することを前提としてプログラムされています。逆に言えば、当たり前のことですが、現代のような24時間社会に適応できるように私たちの体はプログラムされていません。そうした機能を備える必要もなかったはずです。
P.165
夜型にずれないように体内時計を調節するには、「朝」が肝心になります。まず、屋外で朝日を30分以上しっかり浴びるのが効果的です(太陽光線を直接目に入れるととても有害なので、直視はいけません)。朝日を数分間だけ浴びれば良いというものではなく、やはりこれくらいの時間が必要になると思われます。室内にいても十分な照度の光を浴びることは難しいので、やはり外に出る習慣が必要になってくるでしょう。また、カーテンを開けて眠ることで、差し込む朝日が体内時計の朝方への修正を助けてくれることが期待できます。さらに、先に述べたように、朝食が朝日の作用を助けてくれるので、バランスよく栄養をとるのが無難でしょう。
(石丸註:この文脈では食事内容の栄養バランスよりも、内容にかかわらず朝食をとること自体による、体内時計の朝型化効果の方が重要であるように思われる。)
最後に、P.40~42の要約:生活習慣病の4つの原因
① 食習慣(動物性脂肪摂取量の急増)
② 運動不足
③ 心理的ストレス ~ 現代型の
④ 体内時計と夜行(光)性社会環境のズレ
以上