一韶の俳句ブログ

俳句を詠うのは自然・私・家族・夢や希望・社会など。読む時はどんな解釈が浮かぶか読み手の経験や生活によって様々

2999  硝子窓手を広げ逆さま守宮  黒薔薇

2023年06月06日 | 

 ニホンヤモリは、シーボルトが日本で発見したため、(学名:Gekko japonicus)とされているが、ユーラシア大陸からの外来種であり、準絶滅危惧種である。人家内外の害虫(ゴキブリなどの虫類)を捕食することから家を守るとされ、漢字では「守宮」「家守」と書かれ、よく似た名のイモリ(井守)とともに、有益な動物として古くから親しまれている。

 ヤモリの足には吸盤のようなものがあり、ガラスに張り付いて自由に行動することができる。作者は、たぶん有益な動物として、「とても可愛い」と思っているのではないだろうか。

ヒメジョオン(姫女苑)

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2284  夏雲とゆらゆら電車語りけり   翠風

2022年08月16日 | 

 線路を走るものに、汽車、電車、ディーゼル車、そして客車、貨車、列車などがあり、俳句ではどれを選択するか、定型に収めるのに悩むことがある。

 さてこの句、多分廃線になりそうな田舎の単線路を、一両の電車、実際は多分ディーゼル車であろう、がゆらゆら走っている。電車そのものが揺らめいているのだろうし、蜃気楼のように大地が暖められ、空気が膨張し光の屈折によっても揺らめいているのであろう。

 この雲と電車が語っているという。「語りけり」と断定されると、「何を語っているんでしょう」と真剣に考えさせるところが、この句の面白いところ。語るはずがないがないじゃないか、などと言ったら身も蓋もありません。

ミント

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2283  テラスで新聞昇りくる尺取虫  蠍

2022年08月08日 | 

 この句、「テラスで新聞/昇りくる尺取り虫」で分けるが自然。そこで第一に、尺取虫の登っているのが、新聞か近くのテーブルか椅子か、それとも植木鉢の枝や葉かどうかも分からない。尺取虫は、天敵の野鳥やカマキリなどの昆虫から身を守るため、木の枝とそっくりに擬態したり、襲われた時に糸を出して蜘蛛のようにぶら下がり、難を逃れることが知られている。

第二に、新聞を読んでいるのが本人か第三者か分からない。つまり、状況としての背景が曖昧なのである。ということは、我々読者は、それぞれ自由に解釈する余地を残してくれている、と解釈すべきであろう。この余地が多いほど解釈や共感も多くなるのではないだろうか。

 何でもかんでも説明したくなるのが私たちの常ではあるが、この句のように何かを省略することによって、俳句に深みや奥行を持たせることができるのではないかと思う。俳句は短詩「省略の文学」と言われる所以である。

ミソハギ(禊萩)

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2282  日向水乳房あらわに洗ひをり  釣舟

2022年08月06日 | 

 文明開化が始まった頃、アメリカ人が人力車に乗り町を通ると、人家の庭で女性が行水をしていた、という。驚いたアメリカ人は「日本人はなんと野蛮な人種だ」と思ったが、車夫も通行人も誰も女性を見つめなかった。つまり、「女性をじっと見つめ、卑猥な心を持ったアメリカ人である私が野蛮で、日本人こそ道徳的である」という結論になったそうである。

そういえば、昭和30年代の私の子供の頃、農家のお婆さんが通学路でお尻を出しておしっこをしているのを見かけたことがある。そんな光景がよく見られたのだから、昭和初期頃まで夜這いや遊郭など、性も開放的かつ道徳的だったのかもしれない。

キンミズヒキ(金水引)

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2280  尺取虫急ぎ足するボンネット  吠冲

2022年08月02日 | 

 尺取虫は、天敵の野鳥やカマキリなどの昆虫から身を守るため、木の枝とそっくりに擬態したり、襲われた時に糸を出してぶら下がることが知られている。そこで、車のボンネットに落ちたらさあ大変。ボンネットが太陽に熱せられていたら、あっという間に干からびてしまうだろう。

 この句の場合、それほど熱くないようだからなんとかなりそうだが、とりあえず鉄板の上を急いで走る他に尺取虫に生き抜く術はない。しかし、これからどうやって近くの植物にたどり着くのだろうか。

人間の作り出した様々な構造物は、尺取虫のような小さな虫たちにとっては、地獄と死を意味している。

ハギ(萩)

 

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2279  道をしへ仙厳園の観音岩  黄玉

2022年07月29日 | 

  「道をしへ」とは、ハンミョウ科の昆虫のハンミョウ(斑猫)の俗称。人が近づくと飛んで逃げ、1〜2m程度飛んで着地し、度々後ろを振り返る。往々にしてこれが繰り返されるため、その様を道案内にたとえ「ミチシルベ」「ミチオシエ」という別名がある

 さて、仙厳園は、鹿児島にある薩摩藩、島津家の別邸で、現在は一般に開放されており、御殿、レストラ、尚古集成館、薩摩切子工場、観音岩などがある。

オオバギボウシ(大葉擬宝珠)

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2278  納涼やしたたかに凛と咲く花よ  洋子

2022年07月23日 | 

「納涼」は、「のうりょう」と読み、「納涼祭」「納涼船」など。又、「すずみ」とも読み「涼み」とも書く。「夕納涼」「門納涼」など。さて、今年の梅雨明けは、観測以来過去二度目の6月中だった。今年の夏は、長くてかつ猛暑が続きそうである。

 さてこの句、何の花だろう。つまり、敢えて花の名前を言わないのが、この句の味噌である。そこでヒントになるのが、「したたか」で、漢字は「強か」である。「凜」とは本来、「寒い、寒さがきびしい」ことであるから転じて、厳しい、りりしい、凄まじい。身や心がひきしまる、などと言う意味にも変化していった。

 夏の暑さや乾燥にも負けない丈夫な花を検索してみた。洋花の中の和花が少しある。キキョウ(桔梗)とオダマキ(苧環)である。又、琉球朝顔も入っている。私としては、ヤマユリ(山百合)やヒオウギ(桧扇)、ギボウシ(擬宝珠)、なども入れておきたい。読者に想像を任せると、地域それぞれ、人それぞれ、色々の花の名前が出てくるのだ。

キンシバイ(金糸梅)

 

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2277  雨止みてせせらぎ音頭蛍舞う  イヨ

2022年07月12日 | 

 「せせらぎ」は、「せせらき」「せぜらき」「せせなぎ」「せらぎ」などとも言われ、動詞「せせらぐ」の連用形の名詞化である。 浅瀬などに水が流れる音。また、音をたてて流れる小さな、あるいは浅い水の流れ、浅瀬そのものをいう。

 この句の面白いのは、小川のせせらぎを「音頭」としたところだろう。音頭とは本来、雅楽の主奏者、声明や民謡の主唱者を指した。先頭に立って指導することを「音頭を取る」などと言うようになったことを踏まえると、この句の「音頭」がなかなかの選択であったことが分かるだろう。せせらぎの音頭に乗せて、蛍たちが乱舞している、というのだ。

オオバギボウシ(大葉擬宝珠)

 

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2275  遠き日の破滅派いずこ桜桃忌  鯨児

2022年07月03日 | 

「破滅派」とは、フランスのまだ何者でもなかった若者たちが、安アパートに集って安いワインに酔いながら、まだ予算さえ確保できていない映画の計画について無謀な思い付きを塗り重ねていた頃から始まった、という。その後、ゴダールやトリュフォーたちが映画監督になり、ヌーベル・ヴァーグの旗手として新しいフランス映画を立ち上げていった。

  一方、桜桃忌は、入水自殺した太宰治の忌日であり、坂口安吾、石川淳、織田作之助らと共に、「無頼派」と呼ばれている。太平洋戦争後の混乱期に始まった、破滅へ向けての生活無頼であり、又旧態を打破し新しい文学の追求も視野に入れていた。私は、割腹自殺した三島由紀夫も無頼派に入れても良いのではないか、と思っている。

 いずれにしても、破滅派も無頼派も、どうやら消滅した模様である。六十年代、七十年代の日米安保闘争の戦士達も、悲しいかな安穏とした老人生活を送っているのであろう。

 ところが、最近の日本では、作家の高橋文樹が、二〇一〇年ウェブサイト上に無頼派の流れを汲む第二の「破滅派」を立ち上げた。乞うご期待である。

ヒメツルニチニチソウ(姫蔓日々草)

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2274  ふんわりと産毛残して巣立ちたり  歩智  

2022年06月14日 | 

(ふんわりと うぶげのこして すだちたり)

  以前私は、野鳥のための巣箱を作った時山雀が入り、その子育てを遠くから見守ったことがある。又、犬柘植など、木を剪定していて巣を発見したこともある。しかし、巣立ったばかりの鳥の巣を驚かしてはいけないと思い、覗いたことは、一度もない。

 さてこの句、産毛を残した動物はなんだろうか。鳥類と考えるのが普通だろうが、毛のある哺乳類なども候補ではある。一応鳥類として考えると、第一候補は燕、二番目は雀、三番目は鴉、つまり私達の身近にいる鳥達である。つまり、こういう俳句が作れるのは、身近に野鳥がいるということだ。

 最近は、巣箱に小型カメラを付けて、パソコンで観察できるようになったらしい。便利になったものだ。

タツナミソウ(立浪草)

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2273  五月雨や熊本城の天守閣  沙会  

2022年06月12日 | 

 この句、作者は「五月雨」「熊本城」「天守閣」という名詞を、助詞の「や」と「の」でつないだだけである。副詞も形容詞も動詞もない。作者の感情や理屈など一切の修飾や説明がない。

 しかし、読み手である我々は、数年前熊本地震があり、熊本城が大きな被害を受け、最近ようやく天守閣の修復が終了したのをニュースで観て知っている。作者が、その復旧した天守閣を仰いで、熊本市民の安堵の気持ちや加藤清正の築いた城の歴史などに思いを馳せたであろうことが、想像されるのである。そして、修理された屋根に、滂沱たる五月雨が降っている。

 6年前の2016年4月、熊本地震が発生した。震度7が1回、6強が2回、6弱が3回。計測震度は、東日本大震災(6,6)を上回り、熊本は(6,7)だった。関連死を含めて273人が亡くなっている。負傷者2800人、避難者18万人。被害額4.6兆円という大災害だった。

 俳句は、短詩であり省略の文学と言われるが、この句のように作者の言わんとすることを具体的な物だけを提示して、読者にその投げかける。これが俳句の原点なのだ。

タツナミソウ(立浪草)

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2272  第309回 岩戸句会   五月 

2022年06月04日 | 

五月雨や熊本城の天守閣         沙会

濃淡の阿蘇の新緑描く筆         〃

 

ふんわりと産毛残して巣立ちたり     歩智

梅雨どきとはいえ昨夜の豪雨かな

  

あじさいやエンディングノート書き直す  洋子

夏みかん唇指もしたたりて 

 

夏空や右折車線は渋滞中         光子

蜥蜴居て一オクターブ上がるキャー    〃

 

鶯もお国訛りや三千院          凛

ガーベラに見つめられてる昼下がり    〃 

 

トマトの輪切りボヘミアガラスの皿    炎火

紫陽花の国道を切る配管工 

 

遠き日の我と行きかふ夕焼雲       さくら

回り道して万緑の中に入る         〃

 

蝶の口出水の後の土を吸う        薪

販売車の弾む音楽万緑へ

 

さえずりに揺れて応える若楓       鯨児〃

麦嵐波涛につるむ風の神 

    

野原でスキップランラン夏来たる     一煌

花間近為朝ユリの息づかい

 

夏の蝶屋根越す毎に裏返る        豊春        

万緑や森に溶け込む石仏         〃

 

静けさの万緑の寺鐘の音         イヨ

穀雨来て野道賑わい風渡る        〃

 

初夏になり鮎川戻り海静か        鞠

一面に蜜柑の花や香水瓶         〃

 

公園の泉水跡に八重桜          余白

妻拝す月下美人に何願う

 

日が暮れて命のかぎり蝉時雨       忠人

雨に濡れ香り色付く牡丹かな       〃

 

万緑や赤傘野点沢求め          黄玉

野薔薇道越えて歓声溢れけり       〃

   

逃げ延びた金魚を売って下さいな     雲水

新茶汲む二煎三煎八雲もち        〃

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2226  二波三波波乗りジョニー五波六波   鯨児

2021年08月18日 | 

「波乗りジョニー」は、桑田佳祐の作詞作曲。歌詞に「同じ波はもう来ない、風が水面に帆を立てる、遥か遠く秋が目醒めた、せつない胸に波音が打ち寄せる」などの言葉が目を引く。2001年、オリコン週間1位(通算2週)ソング・オブ・ザ・イヤー、オリコン7月度月間1位、年間ではオリコン4位だった楽曲。かなりヒットしたらしい。

 オリンピックのサーフィン競技で、五十嵐カノア君が銀メダル、都筑有夢路ちゃんが銅メダルと大健闘して記憶に新しいが、この句のジョニーは只今第4の波に乗っているらしい。

おっとっと、ところが作者によれば、この句はコロナ感染の波のことを言っているそうである。そうであるならば、現在の日本は、幸か不幸か新型コロナの感染第5波に乗っていることになる。

サルスベリ(百日紅)

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2225  積乱雲胸のなかにも立つ日あり  いふり山麓

2021年08月17日 | 

 積乱雲が胸の中に立った、という。さて、読者である私は、作者の胸の中を覗こうとする。積乱雲は、入道雲ともいう。➀遠くから、例えば砂浜から眺めていれば、海上の入道雲は白く雄大で美しい。➁入道雲が近づいて来たら危険である。土砂降りの雨や落雷があるから、早く屋内に退散すべきであろう。③入道雲の中に入ってしまったら、正に豪雨、突風、落雷と身が危険である。

 さて、作者の胸中はいかなるものか、➁が作者の意向かもしれないが、想像が難しい。そこで私は➀を採りたいと思う。気分でいうとイライラした、ムカムカした、ハラハラした、ドキドキした、モヤモヤした、ワクワクした、ウキウキした気分などが考えられる。

 私は、ワクワクした気分を採りたいと思う。きっと、何か良いことがあってほくそ笑んでいて、海で泳ぎながら積乱雲を眺めているに違いない。

ムクゲ(木槿)

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2224  廃屋の庇傾き苔の花  さくら

2021年08月16日 | 

(はいおくの ひさしかたむき こけのはな)

 2018年の日本の空き家は846万件。空き家率は13.6%。県別でトップは和歌山県の18.8%。徳島、鹿児島、高知、愛媛と続く。過疎化が進んでいる県であろう。一方、空き家率の低い県のトップは、沖縄県の9.7%。埼玉、神奈川、東京、愛知と続く。沖縄を除けば、大都市圏の人口密集地である。

 空き家の中には、所有者不明で税金も払わず朽ちて危険な廃屋も多い。これらは、急ぎ法律を作り撤去して更地として、土地を国有化するべきだ。こういった問題を放置するのは、政治家の怠慢である。

ミントの花

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