粕汁は、歳時記には「味噌汁に酒粕を入れたもの」とあるが、もう少し広義に解釈して、単に「酒粕を入れた汁、又は鍋」で良いだろう。寒い日の粕汁は、とても体が温まる。
さてこの句は、台所に粕汁の煮こぼれ跡があった、と唯それだけのことを言っているが、この煮こぼれ跡には、師走の主婦の慌しさがあり、満腹感と共に何とも言えない空虚さを感じさせる。物事には、必ず表裏があり、陰陽があるが、この句は陽の食事に対して、陰の舞台裏の句と言える。
妻俳句の得意な作者であるとなれば、この句は妻へのいたわり、優しさの句と言っても言い過ぎではないだろう。作者が「ご苦労さん」と呼びかけている、実は愛妻俳句なのだ。そういう風に考えると、この句を流れているそのこころは「陽」なのである。