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Raise a Spirit.(番外編)

2021年01月30日 01時22分20秒 | 2021年

 通常の日記とは別に、ここ2週間ほどずっと気にかけていたことについて書いておきたい。

 レイズアスピリットという馬がいる。10歳の牡馬で、現在も金沢競馬の現役競走馬である。かつては中央競馬でも4勝を挙げ、7,000万円以上の賞金を稼いだ馬だ。

 Twitterのとあるアカウントから、「富山県高岡市で大雪の中を放置されている馬がいる、何とか助けられないか」という発信があった。馬はわずかに除雪された放牧地の一角で、大雪に囲まれたまま自身の糞尿でドロドロになった地面に立ち続けていた。そのツイートによると、ろくに餌も与えられていないそうで、馬体は骨が浮き出るほどガリガリに痩せていた。

 そのツイートがきっかけとなって行政機関や現地のNPO法人ピース・アニマルズ・ホームが動き、飼養管理者に対して指導が入り、一度は建物内に避難することが出来た。しかし、数日後にはなぜか再び雪深い放牧地へと戻され、遂には衰弱して立てなくなってしまった。立てなくなった馬は生きられない。一時は安楽死となったという情報すら出回るほど厳しい状況だった。

 そんな馬を救おうと、有志の方々が立ち上がった。地元の方々に加えて、競馬関係者の方々も現場へ入られたそうだ。クレーン車で馬を吊り上げて屋内の施設へ移動、獣医さんによる治療の甲斐もあり、何とか自分で立ち上がることが出来るようになった。現在は富山県馬術連盟の施設にお世話になっており、自分で歩けるようになるまで回復し、餌も積極的に食べられるようになった。

 北日本放送などの報道によると、飼養管理者は80代の男性で、「馬は寒さに強い動物で、衰弱しているという認識はなかった」と言っているそうである。以前は馬の厩舎も持っていたが、孫の家を建てるために解体し、馬の家はなくなった。結果、雪に埋もれたまま放置され、餌は1日にバケツ1杯の飼い葉のみ。水もほとんど与えられていなかった。

 競走馬は経済動物である。ごく一部を除いて、大多数の馬は天寿を全うすることが出来ない。しかし、経済動物であるからといって苦しめていいわけがない。彼らにも尊厳があるのだ。最後は人為的に命を奪うことになるとしても、生きている間は出来うる限り誠心誠意お世話をするのが命に関わる仕事をする人間の責務だろう。一方で、このような劣悪な環境であることを知りながら、格安の管理料に釣られて馬を預ける馬主がいるということも忘れてはならない。

 レイズアスピリットは今、徐々に回復に向かっている。しかし、彼がこの環境に身を置いていられるのはそう長くない。馬は馬主のものなので、回復して再び競馬に出走させるならまだしも、極端な話、再びあの飼養管理者に預けることも、殺処分にすることも出来る。そのようなことを防ぐためには、現在のように多くの人が注目し続けるか、何らかの形で馬を引き取って面倒を見るしかない。前者は今後何年にも渡って目を光らせ続けるというのはなかなか難しいだろうし、後者は一にも二にもお金が掛かる。

 現在、レイズアスピリットのお世話は馬術連盟をはじめとする有志の方々のご尽力と、全国から届く支援物資で成り立っている。私も、今週末の競馬でPOG指名馬のマンインザミラーのデビュー戦に投入予定だった1万円を用途変更し、チモシーやアルファルファなどの牧草を送った。もし支援したいと思ってくださる方がいらっしゃったら、先述した「NPO法人ピース・アニマルズ・ホーム」のInstagram内で募集されているので、是非ご覧になってみてください(現在の馬の様子も動画で見られます)。

 いずれにしても、課題は山積している。私に出来るのはせいぜい支援物資や寄付をすることくらいだが、出来うる限りは継続していこうと思っている。

 いち競馬ファンとして、レイズアスピリットのこれからの馬生が明るいものになること、そして今後は彼のような扱いをされる馬が出てこないことを、切に祈る。どうか、全ての命が尊厳あるものとして大切に扱われますように。