帰路の途中、八百屋のおばさんに顔色の青さを見咎められて、「風邪を引いたんだ。」と答える遊び仲間を無事家まで送ると、私もまた家路に着いたのでした。それには他の仲間が何処へ行ってしまったのかもう遅すぎて分からないという理由もありましたが、何だか今分かれて来た遊び相手の、常とは違う今日の話し方や様子が気になっていたからでした。家に着いても私は1人物思いにふけっていました。
『土筆が、こんなまだ寒い雪のある時期に?本当に生えるのだろうか?あんな土筆など見た事も無い場所に、本当に土筆が有るのだろうか?そして、何であの子は私に、あの場所に土筆が有ると言って誘ったんだろう?内緒だなんて、不思議な事ばかり言って、何があったんだろう。』そんな訳の分からない事ばかりを堂々巡りに考えていました。
「お父さん、今の寒い時に土筆は生えるのかしら?」
私は疑問に思った事を目の前に来た父に質問してみるのでした。「つくし?」父はぎょっとした感じで土地の名前の筑紫じゃないな等、もごもご口籠って言葉を濁らせていましたが、「この時期に土筆だなんて…」と、見た事無いなぁと言うと、おまえ何か見たのかと聞いてくるのでした。そんな父の顔を見ると、父も先程の遊び仲間に負けず劣らずの極めて生真面目な顔をしていました。その顔つきや口調は常の父とは違っているのでした。私は父の態度にも尚更に、「この時期の土筆」の事を怪訝に感じるのでした。
「無いよね、今のこんな寒い時に。土筆だなんて。」
私は父の言葉に、やっぱり土筆はまだ生えていないのだと独り合点して安心しました。私にはこんなまだ雪が目に見えて残る時期に、土筆が生えているということ事態が信じられないのでした。そして、まだ見た事が無い物をそうだと言われると、未知の分野だけにその事がかなり不安に思えるのでした。自分には理解できない事、分からない事が不安感を呼んで来るのでした。