「今皆がいた此処にも土筆は有るけど、」そう言って自分達のいる場所の向こう側、大きな施設の渡り廊下の下、軒先の様になっている下の地面がむき出しになった空間を指差すと、あそこにも土筆が生えるんだよ、と優しく言うのでした。
「春先にここへは来たんだろう、誰かと一緒に。」その誰かを嘘つきだと思ってるかもしれないけど、そう言うと彼は来てごらんとその女の子を手招きし、彼女を伴って軒下にやって来ました。足元の地面を指さすと
「今ここには何もないけど、今ここには土筆は生えていないけど、ここにもちゃんと土筆は生えるんだよ。」
そう言ってにこにこ笑うと、不思議そうに自分を見上げる女の子に親しみを込めて言うのでした。
「ここの土筆はこの辺りでも1番早いらしいから、もう今だと遅くなって皆無くなっているんだ。此処は今地面の土だけになっているだろう。」そんなことを言って、実際に女の子に土だけのむき出しになった地面を見せて確認させるのでした。
「うん、何にもなくて地面だけ。」
そう女の子が答えると、そうだねと相槌を打ち、彼はせっせと作り笑いを浮かべて見せます。
「でも、もっと前にはここに土筆があったんだ。」
それは確かだからね、皆に物を教える役目の僕が保証する、と念押しするのでした。だから、最初に君にこの場所に土筆が生える事、有る事、を教えた子の言う事は嘘じゃないからね。君がその子の事を嘘つきだと思っているらしい、から、その子は君に嘘つきだと思われたくない、と言って、僕に、ここに本当に土筆が生えていた、と言ってほしい、と言って、そう頼んで来たんだ。その子は嘘つきじゃない、から、本当のことを言っていたんだよ。僕も、ここに土筆が生える事を知っているし、本当に、土筆を見たこともある。雪が溶ける頃なら、ここに、本当に、土筆はあるんだよ。
事細かにそう言うと、彼はほっーと一息吐くのでした。