「勝手に1人で何処にでも行っちゃだめよ。」
お姉さん然として、私にこう注意した時の彼女の笑顔は、私より年上の彼女は私より何でも知っていて余裕があるのだ、というコンプレックスを私に抱かせました。私は今日湧いてきた疑問の数々の内どの答えも出せずに帰るということが癪にさわりました。それで、もう少しここで遊んでから帰ると彼女に返事をすると、私の返事を聞いた彼女はそれっきりで、再び帰宅を促す事はせずに、そうと言ってあっさり自分の兄の後を追って同じ方向に姿を消してしまいました。
これは、今迄の彼女が何でも何時でも繰り返し私を誘っていた事を考えると、私にはかなり意外な出来事でした。それで私はこれもいつもと違う事だと思い、内心えっと、面喰いました。幾ら癪にさわったとはいえ、私も本当は1人で此処に残る気にはならなかったのでした。何時もの様に何度か彼女の声掛けがあれば、その2、3回目には私もすんなり帰宅するつもりでいました。しかし、こうなると意地でも口から出た言葉通りにここで1人で残り、少し時間を潰して帰る事になりそうです。如何しようか、何をして時間を潰そうか、そう考えていました。
私は1人仕様が無いので、小道に屈んで今迄の事をおさらいしてみます。あっちの道からやって来て、あそこでお兄さんから土筆があると言われて此処まで歩いて来て、あそこで皆でしゃがんで、…こう考えて来ると、またその場に無い土筆の話まで辿り着きました。
『今じゃない雪の解けた頃。』頃だから時だ、時は今じゃないのだ、と思い付きます。だから今は無い物なのだ。もう少し早くに来れば、有るのかな?もう遅いというからには遅いんだ。今の温かくなった時。今度のこれから暖かくなる時の始まった今は、もう遅くなって仕舞って、あそこに土筆はもう無いんだ。と、私には如何やら時期外れで土筆がそこにはもう生えていない、終わったのだという事が理解出来てきました。疑問が1つスッキリすると気分が明るくなってきました。