Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(8)

2018-03-03 15:02:56 | 日記

 そこで私は、先を歩いて行く子の後ろ姿を指さすと、あの子が「その日」を知りたいと言っていたからだと答えました。そしてその日を知りたいと言った、その子から聞いた理由をその子の口調を真似て言ってみるのでした。

 「あの子、そんなことを言っていたのかい。」

おばさんは酷く真面目な顔付きになると、あれこれ考えを巡らしていたようでしたが、

「仕様が無いことを考えても仕様が無いという物だ。」

そう口から言葉に出すと、そんなことを考える子には自分で考えてもらうといいよ。と私に忠告するように言うと、更に続けて、私が考えることは無いんだよと、やや怒ったように言うのでした。

 「このお天気の良い日に、気が滅入るという物だ。何て暗い…、」

そこでおばさんはじーっと自分の顔を見上げている私の視線に気付くと、言いかけていた言葉を途切るのでした。

「…くら、くら、暗くならない内に帰るんだよ。」

おばさんは漸くそう言うと、優しくにっこりとした目を私に向けて、やや寂し気に笑いかけてくれるのでした。

 はーい、元気に笑顔で返事をすると、私は行ってきまーすと、もう角を曲がって姿を消してしまった仲間の皆を追いかけて走り出しました。午前の遊び場に向かって一目散です。いえ、この時は通年の通常の遊び場の方へ向かったのかもしれません。仲間の中では年少に近い私です、先に行ってしまった遊び仲間達の向かう場所へと、何時も何処へでも私は後から走って付いて行ったのでした。


土筆(7)

2018-03-03 14:45:26 | 日記

 遊び場へ行く途中で、何時も仲間が声を掛け合う八百屋のおばさんの、その日もにこやかな愛想のよい笑顔を見て、私はふとこのおばさんなら答えを知っているかもしれないと思いつくと、通りすがりに尋ねてみるのでした。

「おばさん、もう雪が降らない日って分かる?」

もうこれで今日から絶対雪が降らないっていう日、そう尋ねてみるのでした。勿論なんでも世間話をよく知っているこのおばさんにだって、私の質問は答えられない問いかけでした。

「そんな日誰も分からないよ。」

知っている人いないかしら?さらに問いかける私に、おばさんはこう答えるのでした。

「そんな空の天辺のことなんて、神様でもないと分からないさ。」

おばさん神様じゃないからね、そんな事は分からない。そう言ってやれやれと言う感じで、八百屋のおばさんも何だか物静かで冴えない様子です。野菜の仕入れがままならなかったのでしょうか、雪で近隣の野菜の収穫も出来ず、遠くから送られてくる野菜の運搬も滞っていたのでしょうか。子供にはまだそんな事は分かりません。何時もと違っておばさんも元気が無いねと、感じ取られた雰囲気のままに幼い子に言われると、八百屋のおかみさんも修行が足りないねとくさってしまいました。

   「私の事より、何でそんな雪がもう降らない日の事を知りたいなんて思ったんだい。」

空元気を出して笑い顔を作ると、「おばさんにはそっちの方が不思議だね。」などとおどけた感じで言って子供の気を逸らすのでした。