Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(15)

2018-03-11 15:23:38 | 日記

 その年の春、4月の事だと思います。完全に気候が良くなり、外套が要らなくなった私は身軽な服装になっていました。世間では日増しに暖かさと活気が増していた頃です。私達は何時もの沢山土筆の生えている場所ではなく、その少し向こうにある日陰で湿った場所へとやって来ました。

 「何時もはここで土筆を見るんだけど、」

今年はこっちにも土筆がある事を教えて置くね、という指導者の前置きがあり、皆は話の主に先導されてこの別の土筆が生えている場所へとやって来たのでした。見渡すと、有ります有ります、此処にも土筆が見事に生え揃っていました。日陰のせいか茶色い色が濃く見えて、未だ初々しいくらいに瑞々しい、旬と言える土筆達です。昨年教えられた場所の乾燥してかさついた土筆に比べると、見た目に新鮮で随分と素敵に見える土筆達でした。

 私が思わず手を伸ばしてこれらの土筆に触れると、しっとりしていて、ひんやりとした水気が感じられました。私が実際に手で土筆を折り取ってみると、茎はぬるりと潰れてしまい、手に土筆の水分が染み出て来ました。そこで手を広げて見ると、中には土筆の潰れた茎が汚い様でべっとりと張り付いていました。見た目も感触も嫌な感じでした。

 また、この場所の土筆達にはプーンと鼻を突く湿った土の香りがします。此の手の土の香りというのも私は好みではありませんでした。転んで怪我をした時に嗅ぐぬかるみの香りです。そしてべとべとした土の触感は如何にも汚れていて汚い感じがしました。体に着いたぬかるんだ土汚れは、水で洗っても何時までもぬるぬるとしていてなかなか流れ落ちて行かないという、泥汚れ特有の現象も実は私は大嫌いでした。