Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

マルのじれんま 26

2020-05-12 16:35:26 | 日記
 気候は清々しい初夏の気候、既に濃い影を水面に落とし始めたお堀端の緑陰。ほり沿いに続く小道を吹き抜けていく風はあくまで薫風然として心地良い事この上ないのでした。濠端に腰かけ、思い思いに釣り糸を垂らす2人は将に至福の時を過ごしていました。

 『極楽だなぁ。』『心地よいことこの上ない。』2人はそんな事を思っていました。ふと、紫苑さんが気付いてマルに声を掛けました。

「円萬さん、あなたは僧侶なのにと殺生をしてもいいのですか?。」

円萬という名は、マルの本当の名前であるマル・マン・ソウダネから取った地球上での彼の名前です。紫苑さんは如何にもうっかりしていたというた感じでマルにこう聞いたのですが、普段から紫苑さん同様に洒脱で、また大らかな面がある彼が、僧侶だからといって全く仏の戒律に沿った生き方をしている訳では無いだろうと推察していました。内心ニヤリとしてマルの返事を待ちました。

「殺生?、何がでしょう。」

マルははてな?という感じで怪訝な顔付になりました。『はて、殺生とは何の事だろう?。』、彼には紫苑さんの言葉の意味が分からないのでした。私が何を殺しているというのだろう?。彼には思い当たる生物が有りませんでした。殺生ね、そう呟くと、

「私は何に対して殺生をするんでしょうか?。」

マルは思いあぐねて紫苑さんに問い掛けました。

 あらら、えー、紫苑さんは眉根に皺を寄せました。彼はマルの言葉の意図するところが分かりません。『何かの禅問答だろうか。』、ここは何か洒落た言葉の一つでも考えて相手に返さなければいけないのだろうと、彼は思わず息を詰めて考え込みました。並んだマルも彼に指摘された己が殺生について集中して考え込んでいました。

 2人心此処に非ずの状態で水面の自分の浮きに目を遣りながら、静かな沈黙の時が流れます。遂にほうっと紫苑さんが息をついて、自分のズボンのポケットから白いハンカチを取り出すとその角を摘まみ、パタパタと振ってマルに合図しました。紫苑さんは「降参です。」と苦笑いしました。

 「え、降参?。」

何がですかとマルは紫苑さんに尋ねました。

「勿論殺生ですよ、魚を釣っても殺生にならないとはこれ如何に。」

紫苑さんが答えました。