大体…、紫苑さんは言いました。
「あなたと魚との遭遇の件は大体分かりました。」
そして彼は、にゃっとマルに悪戯っぽい笑顔を向けると、ところでと続けます。
「円萬さん、人間の女生との遭遇の方は如何なんですか、そちらの方はされなかったのですか?。」
彼は如何にも意味有り気な目付きで横に腰かけている連れの僧の顔を見詰めました。彼の目に映る円萬さんはお年の割りには純真そうな顔付に見えました。彼の真新しい重ね着の下の白い衣装の様に無垢な人物に見えます。
円萬ことドクター・マルは痛い所を衝かれました。『何を言い出すのだこの人は。』彼は思わず焦りました。口を一文字に閉じると目を瞬きました。そんな連れの僧の慌てぶりに、おやと紫苑さんは何だか優越感を感じました。彼は今この僧から聞いた俗世を離れた様な彼の崇高な釣りの話にやや気圧された感じでいたのです。その為、どっぷりと俗世の荒波に浸かっている自分の方が、人の煩悩の事でなら大凡の点で彼に勝利していると、この時の彼に不思議な優越感を感じさせ、奇妙な勝利感を紫苑さんにもたらしたのです。彼より私の方が人間的な経験が豊富だ。紫苑さんは感じました。
確かに、現実的にも異星人であるマルより、人間である紫苑さんの方が人間的経験は遥かに抱負でした。それは確かな事実でした。この時の紫苑さんは目の前にいる人物は自分の内に含まれる物だ、全く自分の要素として自らの人生経験の内に収まってしまう人物なのだと感じました。
純粋な物より不純、無垢より汚れた物か…。確かに、『悪化は良貨を駆逐する』だな。そんな言葉が彼の胸の内に浮かびます。こんな感情がそういう社会を生み出すのだろうか。紫苑さんは思いました。