ドクター・マルの話は続きます。シルは落ち着いた眼差しで優しく彼を見詰めていました。彼の心の葛藤を感じつつ、彼の故郷の星での過去の出来事、弟エンやその妻ウーとの関わり合いについて読み取っていました。
「それで、何故そんなにお嫌いだったウ―さんと、ドクターは婚約する事になったのですか?。」
シルは問題の核心について触れようとしました。マルは質問されてハッとした顔をしました。そして酷く顔を曇らせると、その経緯となった事件の場面が次々と彼の脳裏に浮かんでは消えるのでした。マルはこぶしを握り締めると、流石に自分の言葉ではこれ以上語れないとシルに断りを入れました。
「いいですよ。その経緯を細かく思い出してください。私の方で読み取りますから。」
シルは静かに微笑んで言うと、マルに当時の事を出来るだけ詳しく思い出すよう促しました。マルはそれならと承諾しました。彼にとっても心の内で思い出すだけの事です、ごく自然にできる行為でした。
さて、彼が回想に入ると、シルは静かに目を閉じマルの心の内に自分の神経を集中させました。彼女は彼の回想の中に入り、彼の記憶と共にマルの基礎学習時代の世界へと彼と意識を共有して行きました。
なるほど…、シルが言うと、マルは黙ったまま頷きました。静かな空気がシルの相談室に流れ、次の訪問者がドアの外に来た事を告げるチャイムとランプが室内に点りました。今日はこれで、シルの言葉に、マルは言葉少なにソファーから立ち上がると、シルの部屋を離れて行きました。
「久しぶりに嫌な事を思い出したなぁ。」
マルは呟きました。彼にすると忘れていた出来事でした。いえ、嫌な事は忘れるに限ると、彼自身自発的に心の奥に仕舞い込んでしまった記憶でした。「そんな事もあったんだなぁ…。本当にもうすっかり忘れていた。」。宇宙船の通路を歩きながら、再び彼は溜息と共に呟くのでした。何だか足取りが重くなりがちです。彼は疲れているのかもしれないと感じました。
『地球に降りてリフレッシュして来よう。』
この考えに彼はニヤリとしました。『エンやあの子達の事はその後考える事にしよう…。』、それでいいな。彼は問題を再考する事に決めたようです。