「おかえりなさい。」
マルと紫苑さんの2人が寺の門を潜ると、本堂脇に在る庫裡(付属の家屋)の入り口でこう言って若い女性が出迎えてくれました。勿論この女性はシルです。
「伯父様、こちらがお客様ですね。」
「ああ、紫苑さんという方だよ。」
とマルは彼女に応じます。玄関先でマルは紫苑さんをシルに紹介しました。シルは紫苑さんに初対面の挨拶した後、マルと二言三言打ち合わせの話しをしました。その後客である紫苑さんに向き直り、にこやかにさぁさぁと紫苑さんを屋内へと招き入れます。
彼女は敷居を上がると紫苑さんの先に立ち、廊下を進んで奥の風呂場へと案内しました。「今丁度よい湯加減になっていますから。」と、彼に入浴を勧めます。伯父も後からお客様の着替えを持ってこちらへ参ります。僭越ながら、濡れた衣類は私が片付け致しておきます。では、ご遠慮なくお先にお入りください。
滑らかに、終始そうにこやかな笑顔で彼女が言うものですから、紫苑さんは照れて頬を染めてしまいます。いやいやこれはと謝辞を述べました。お世話になりますな、では遠慮なく、ありがたく頂きますと、こう返事をしました。
彼の言葉を聞いて、シルは風呂の脱衣室に紫苑さんを残すと、風呂場の扉を閉めて廊下の向こうへと姿を消してしまいました。紫苑さんは周囲に人気が無いのを確認すると、安心したように彼のずぶ濡れの衣服を脱ぎ始めました。
紫苑さんが脱衣室から浴場に続くガラスのサッシ戸を開いて中を覗いて見ると、個人宅にしてはかなり大きな浴場の作りになっていました。浴槽がかなり広くゆったりとしていて、優に3人は入れそうです。洗い場には蛇口が3個、否こちらの壁際にも2個あります。何と5人が一度に入浴できる様子です。シャワー口も壁に2個取り付けてあります。