Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 147

2021-04-16 13:33:46 | 日記
 いざ、進まん!。奮起した彼は、やおら流しの角から這い出した。身を低くして果敢に先を窺う。この家の座敷や居間、何方の部屋からも話し声は未だ聞こえている様だ。

 家の奥へと進んだ彼は何時しか匍匐前進となっていた。そんな自分達の従弟の、台所の床をずりずりと這いながら進む背中を、流しの所に残った姉妹はさも呆れた様子で眺めていた。

 その内姉の方が言った。

「あんたも、人が悪いなぁ。」

あの子に未だ言ってなかったの、あの子が生きてるって事を。そう彼女が言うと、妹は姉に向かってぺろりと舌を出した。彼女はくりくりした瞳を悪戯っぽく輝かせて姉に言った。「だって、あの子の真剣な顔付き、面白いんだもん。」

「本当に自分の兄弟が養子になれると思ってるのかしら、」

この家のよ。と、姉は嘆息しながら誰に言うともなく、妹に言った。「あんなに真剣になって、あの子に約束を取り付けるまで帰って来るなって言ったんやろ。」と、妹が応えれば、「まぁ、あなた聞いてたの。」と、姉は意外そうな声を出した。私とお母さんがあの子と話をしている間、あなたは全然知らん顔してたじゃ無いの、と言うと、姉は驚きを隠せない顔で、彼女の妹を不思議そうに見遣った。

 少し前の事、彼女達の母で有るこの家の長男の嫁は、この夫の実家で舅夫妻と同居している義弟、その義弟の子供の不幸を、やはり彼女同様この家とは違う場所に住まいの有る義理の弟、その義弟の妻である義妹からの急を知らせる電話で知った。

 それからの彼女は取る物も取り敢ず、急ぎ彼女の娘達の学校へと走ると、彼女は忙しなく自分の子等の忌引きの手続きを済ませた。そうして彼女は其の儘の足で、急遽この家へと娘達共々に馳せ参じたのである。すると、この家の玄関先で1人うろうろと行きつ戻りつしている子供に目が止まった。それは、彼女に電話連絡して来た義妹の子供等の内の、歳の下の方の子であった。その子の様子を不審に思った彼女が、自分の長女と共にその子にこんな所で如何したのかと問い掛けてみる。と、子はべそ等掻いていたが、漸く彼女達に答えた。

 「兄から、お前はこの家では厄介者だ、早くにこの家から出る算段をしろと言われたんです。」

と言うのだ。そこで彼女達がよくよくその子に仔細を問い質してみると、その子の兄は、この家で不幸となった子の代わりに、その子の父である彼等の叔父の、つまり彼女の義弟の、養子にお前は成れ、と、その子にそう言ったと言うのである。

 「何難しく無い。」

続けて兄は言ったと言う。かつて叔父は結婚しても子が無くて、長男である自分でさえも、彼の養子に成れと言われていたのだ。叔父に子が出来てからはその話も出なくなったが、叔父に子が無くなった今、また叔父には養子が必要な筈だ。だから、こちらから養子の話を持ち掛ければ、叔父は喜んで、快くこの話を承諾してくれる筈だ。

 さてここで、兄弟の年若の子が、そう上手く行くだろうかと案じると、兄は「お前は下の子だ。」と言ったのだという。

「叔父も父の兄弟では下の子、外に出なければいけない下の子の悲哀はよく分かっている。」

「共に下の子同士のお前が、こうこうと叔父に訴えれば、叔父も人の子、お前の事を哀れに思わ無い訳が無い。」

うん、きっと直ぐにでもお前を養子にしてくれるさ。そう言うと子の兄は、噛んで含めるように彼等の叔父と子のするだろう問答を兄弟に教え、最後にはこう言ったそうだ。

「念の為、叔父から必ずお前の養子の約束を取れ。」

叔父がお前と確約するまで家に帰ってはならん。兄はそう言ったそうだ。子は自分の伯母や従姉である彼女等に、こう説明したのであった。




うの華3 146

2021-04-16 12:11:49 | 日記
 「それが、分からないのよ、私にも。」

従姉は彼の問い掛けにあっけらかんとして答えた。「なぁんだ。」期待外れな彼女の答えに、彼はぼやいた。

 『如何しようかな』、彼は思った。彼は居間に続く廊下の遥か先を眺めた。廊下の先の障子戸は開いている。その開放された戸から彼の目に映り込んで来る居間の黒ずんだ畳、畳からより奥に有る濃い茶色の扉、それがぼんやりと自分の目に入って来ると彼は見入った。『玄関木戸だ。』彼は思った。

 自分が立っているこの場から、玄関往来の居間に迄差し込んで来る日差しが見える。その漆塗りの美しい扉の桟に、各々の隙間から漏れ出ずる陽光が見える。おかげで居間の奥はぼんやりと白く烟っている。この家での彼の好みの家財、その1つである端麗な扉は、今遠く霞んで彼の目にはほの眩く見えた。彼は目を細め、思わず微笑んだ。

 「あの先に、有るの?。」

「えっ!?」、従姉の声に彼が驚いて聞き直すと、従姉は言った。「なきがら…、亡骸とか言う物よ。」。なきがら?、彼は思い当たらなかった。

「知らない?、亡骸。」

従姉の問いに、否と彼は答えた。

「あの子の亡骸よ。」

彼がこの言葉を知らなくても、従姉のこの最後の言葉で、彼には大凡の見当がついた。思わず彼の身の毛がよだった。その事は、彼のこの家をこれ以上先に進もうという気力を萎えさせるのには十分だった。

 台所の中間で、しんねりもんねりと躊躇した2人が言葉少なに譲り合っていると、後から来た姉妹の姉の方が追い着いて来た。2人でこんな所で何をしているのだと、姉に問われると妹は、何方が先にこの家の様子を見に行くかで、2人揉めているのだと話した。そんな事で、と、事も無げに姉は言った。「揉める事も無い。それは皆の中で一番小柄な彼だ。」と姉は主張した。彼女は、物見は小柄の役目だと指摘すると、「概ね何時もそうだ。」と言った。

 この姉従姉の言葉で、今迄いざ座敷へと逸る気持ちを抑えて来た彼の、興味のうねりは今やぷつりとばかりに彼の心中の堰を切った。それ迄彼の心の、その深海の底に存在していた慎重という名の錨は、迸り出たこの大波にざんぶとばかりに呑み込みまれ、押しやられ、瞬く間に波に包み込まれて跡形も無く彼の心から消え去った。如何言うものかこの時迄に、何時しか彼の恐怖心は消えていた。多分、この従姉に追い着かれた時に彼のその気持ちは消えたのだろう。そうして芽生えた1番歳上の、この従姉への競争心に彼自身の逸る気持ちが復活したのだった。

 彼は笑顔で浮き立つと、すっくとばかり廊下に立った。それでいて、彼はこの従姉妹等に不承不承の体で対応した。

「智ちゃんの、なきがらとかいう物を見るのかしら。」

気が進まないなぁと彼は渋い顔をした。しかし内心、その実怖いもの見たさも先に立った。彼は時として怖気付く気持ちを振り払うと、ふんとばかりに勇気を奮い立たせた。


今日の思い出を振り返ってみる

2021-04-16 09:31:58 | 日記

マルのじれんま 13
 「それで、兄さん、今度はこのシルさんと結婚するんだね。」エンが突然そんな事を言い出す物だから、マルは慌てました。 彼は赤面して弟の言葉を否定すると、これだからと言って、お前に離婚......
    今日のお天気は曇。過ごしやすい気温です。
    昨日、玄関前の鉢用に、ベゴニアを購入しました。何かあっても、安い花だと気楽です。昔は1ポット50円しなかったこれらの苗も、今や100円以上するみたいです。それに比べると安かったので、ささっと買ってみました。
    さて、未だ何処に植えるか決めていません。前か、中央か、写真のハンギングかな。