Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 167

2020-02-26 09:35:21 | 日記

 縁側で幸福な母子を演じていた私だが、振り返って室内を見ると、先程誰もいなかった筈の座敷に祖父が1人座っていた。彼は如何にも元からそこにいたという様に彼の足を掛け布団の中に延べ、後の半身を敷布団の上に起こしていた。

 おやっと私は思った。何時の間に祖父は座敷に戻っていたのだろうか。しかも、彼は自分の布団で暫く寝ていた気配だ。つまり祖父は昼寝から今し方起き上がったような風情に私の目には見えた。

 私は祖父は布団にも座敷にもいなかった筈だと考えると、違和感のある不思議な気がした。しかし実際に彼はその場に居るのだ。摩訶不思議な顔付で彼を見詰める私に、私が言葉を掛ける前にそれと気付いた祖父は言った。

「私は寝たいんだよ。静かにしておくれね。」

なる程、彼が布団にいる訳だ。私は祖父の意を酌んで、私と一緒に話をしていた母の事は特に気に留めず、彼女にじゃあねと一声掛けただけで直ぐに縁側から廊下に出た。

 その後の私は居間に進路を取った。続いて既に祖母や伯父のいなくなった階段の間に入ると、玄関をチラッと窺って見た。そちら方向で数人の、別れの挨拶を交わす身内の声が聞こえたが、私は聞き流して階段に足を掛けて上りだした。

 私は再び2階の自分達の寝室へと戻って来た。

「よう、お前戻って来たのか。」

父が起きて私を見ていた。その声に私が父を見ると、彼は敷布団の上で胡坐を搔いていた。掛け布団は敷布団の裾にきちんと三つ折りに畳まれて載せられていた。私がジロジロと父の顔を観察してみると、彼はすっきりとした明るい表情をしていた。

 はんじょうだったなぁ、大繁盛という物だ。家の商売もこれだけ繁盛して儲かれば万々歳という物だがなぁ…。そう父は冗談めかして私に言うと、

「お前も寝て居られなかったんだろう、お父さんもだ。」

そう言って彼は上を向き、ハハハハハ…と如何にも陽気に声に出して笑った。私にすると、この明る過ぎる様な父も多少は妙に感じたが、子供にすれば親が元気なのは嬉しい事に違いない。そう思ってそれ以上あれこれ考える事は止めにした。

 私が室内を見ると、中央に敷かれていた私の子供布団が無かった。父の布団が置かれている以外、部屋は広く綺麗な畳の目が広がっていた。この部屋は家で一番畳が新しく綺麗だった。その為か2階という環境の良さも手伝って、気温も湿度も光彩も住人に良好に適していた。私はこの部屋に入るだけで気分よく明るくなる気がした。


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