「おや、」
男性は酷く衝撃を受けた感じで、顔が相当曇ってしまいました。
稚拙な絵だね。ほんとに君が描いたの?冷たくそんな事を言って、真顔で嫌悪に近い表情を浮かべるのでした。
「もう少しましな絵が描けないのかねぇ。」
これでは本当に…、と言って男性は手で口を塞ぎました。
男性は目が合った蛍さんの表情に、彼女の祖父と全く同じ様な、困惑して酷く気落ちした感情を読み取ったからでした。
『危ない、危ない、つい馬鹿正直に言ってしまうところだった。』
男性は苦笑しながら、一生懸命微笑みを浮かべると、愛想よく、
「いやぁ、可愛い絵だね、蛍ちゃんは絵が上手なんだね。」と、心にも無い、言いたくも無いお世辞を言うのでした。
『これこそが追従というものだ!』
これこそが将にそれだな、しかもこんな年端も行かない女の子に自分の方からする事になろうとは、
世の中信じられない事が起こるものだ。そう思うと、何だか自分で自分が可笑しくなってしまいます。
孫の為に、そう思うとこれも世の柵というものなのだ。
男性は相当無理をしている自分の事を思うと自分で褒めたくなるのでした。後でゆっくり自画自賛しよう。
そう思いながら、男性は蛍さんという女の子について、その為人というものを、
2人でゆっくり話せるこの機会に少し知っておこうと考えるのでした。
『何から話そうかしら。』
そう思って再び地面に書かれた彼女の絵を見てみます。
絵だなと思いました。絵から会話を広げて行こう。そう思って座り込むと、しげしげとその絵を鑑賞してみます。
男性はすぐに嫌気がさしてしまいました。しかし、何かしら感想を述べようと思います。
「とても耐えられない。」
つい口をついて正直な感想が出てしまいます。この酷い絵を描いた子が将来…。
そう思うと、男性は立ち上がり、肩を落としてうな垂れると、酷く沈んだ暗い空気に包まれてしまうのでした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます