「お母さん、お祖母ちゃんが来て欲しいって。」
私がこう言うと、台所にいた母は最初無頓着で、今食事の準備中だと素っ気なかった。続けて邪魔しないでねと彼女は付け足した。その後お祖母ちゃんに聞いていないのかと横目でこちらをちらりと見て言った。こういう母の所作に、私は、さては祖母の先程の言葉は母が私に対して祖母に告げ口したのだな、と、ピンと来るものがあった。
「お母さん、お祖母ちゃんに、私が邪魔するって言ったでしょう。」
こう言うと、彼女は臆せずにそうだよと言うとサバサバした態度で、相変わらず流しの仕事に夢中の儘で、自分の手を休めずにいた。私はちょっとムッとした。そこで私がいつ邪魔をしたのだと彼女に文句を言うと、いつもだよと、彼女は空かさず切り返して来た。これには私も売り言葉に買い言葉で負けずに直ぐ切り返そうとした。が、いや、そんな場合では無いと、祖父の事を思い出した。そこで私は最初の話に戻った。
「お祖母ちゃんが、急いで呼んできてって。」
誰を?、と母は相変わらず呑気だ。お母さんだよと声を大きくして私。
「急いで呼んで来てって。きんきゅうだって言って呼んで来てと言われたから。」
こう言うと母の手が一寸止まった。きんきゅう?この緊急かしらと母は空を見てから口にすると、漸く私の方へと向きを変えた。
母は、祖母の言葉を言われたままに言ってみろと私に言うので、それならばと私は一字一句違えずに祖母の言葉を繰り返した。すると母は、思案げにタオルで手を拭き、前掛けも外して、台所に立つ私の脇を無言でゆるりと抜けて、台所から廊下へと上がると居間へと向かった。が、一旦行きかけた母は歩を止めて、ひょいと振り返って私を見た。そうしてお前何かしたんだろう、と言う。まさか、身に覚えのない私は違うと答えるのだった。