kaeruのつぶやき

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呆作落語 「床上げ」 第五回・終。

2014-02-18 23:58:43 | どこまで続くかこのブログ

 八「たしか、いまとなっちゃ一昨夜だが隠居さんの床上げ祝いの趣向に七

福神でもりあげようと、出かけるところだったな。あー、その中身ね。それ

があの和歌」

みんなの手元に紙一枚、一行の和歌が読みとれます。

 【なかきよのとおのねふりのみなめさめなみのりふねのおとのよきかな】

そー、この思いつきも七さんでね、七さん、ちょっと説明を」

七「えー、これ横に書かれていますので、分かりやすいかと思いますが、

実際長屋の連中が手にした物は、縦長に読みにくいコピーでして、なか

なか一読了解というわけにはいきません。それで、御理解を早めるため

裏に訳して書いておきました」

九「今回は状況説明だな、うん、今度は分かる、これが訳か」

【長き夜の 遠の眠(ねむ)りの 皆めざめ 波乗り船の 音の良きかな】

 

一「なるほどねー上手いもんだ」

九「さすが、インテリ 分かるね」

一「これは回文(かいぶん)ですね」

七「分かりました」

袋「そうね、後ろから読んでも同じ文句ね」

八「ゴロちゃんのお母さん、読みが早いね」

七「そうなんです、前から読んでも後ろから読んでも同じ文字の並びで、例

えば “たけやぶやけた(竹藪焼けた)” なんというのがそれなんです」

八「まーな、七の説明だと、これを宝船の絵に書いて、初夢を見る夜枕の

下に敷いて寝るのだそうだ。すると良い夢が見みられるという話だ、隠居に

も良い夢を見てもらって店賃のことなど忘れてもろうという算段だ、え、そん

なことは七さんは思いもしねえ、うん俺の腹積もりだ、まあ半分冗談だよ」

 

 今夜は宝船の絵が間に合わないということでして、各自が自分の紙に

お祝いの言葉を記し“恵比寿こと赤井一郎” とか “毘沙門天こと白田二郎” 

などとサイン入りでございます。

八「それじゃ、いいかい書き終えたかい。一ちゃん英語で書いてもだめよ、

なにドイツ語 全然だめ、永遠の命を!をドイツ語で書くの、やめなよ永遠

に読めないよ。ゴロちゃんのお母さん、達筆だね、え、草書っていうの、読め

るかね隠居、残念なんだけどメガネがなくて読めねえ なんて言うよきっと。

陽子ちゃんの筆も大したもんだね、弁天さんだから朱で長寿か、おれも欲し

いね、病気にならなければダメ、それじゃ明日寝込もう」

九「二郎さんは毘沙門天で “病魔退散、健康長寿” だね。七さんと八ちゃん

は福禄寿と寿老人で “双寿の図 ” と書いてあるだけだが、なんだいこれは」

八「まあ、たまたまお互い寿だ、それに俺が八、こっちが七、七回病に倒れても

八回起き上がる、とも読めるし、福寿草の鉢を隠居の分と隠居の神さんの分と

二鉢届けようと思ってね、ただ二人とも花の見かたなど皆目わからねえ、ゴロ

ちゃんの母さんに見立てて貰ってからにしようと、それで今日はカタログ代わり

だ、そういうことでお母さん、あとで打ち合わせを」

九「七、八それはダメだよ、いやな鉢の話じゃない、金の話だ、イヤね今度の

床上げじゃ一切祝い金など持ってこないでくれてぇ話だな、隠居さんの気持ち

が分かるんでね、こちらも助かるというわけ。 そこでお二人さんが鉢ふたつだ、

俺もそっちはからきし不案内で、いくら位のものがこの位などと言えやしないが、

あの花屋の倅は御存じの通り遊び仲間で、こちらとしては顔がきく積りだ、明日

こちらのお母さんと一緒にいってこれならというのを選ばせてくれ、もちろん勘定

の方は割り勘でよ、四郎ちゃんも六さんも承知するにちげえね。それで、その二

鉢を大きい袋へ入れさせて隠居宅に届ける役は布袋さんの役だ」

 

まぁ、そんなこんなで隠居宅にやってきまして、

隠居「あー揃って来た下さったか、有難う、ありがとう。四郎さんのことは聞いて

る、本人の気持ちのことだから、うん、六さんもな、なかなか犬との仲直りが難

しいもんだ、何だか犬のいる方に背中を向けて寝てるそうだ、トラウマという奴

かね。背中だから知らぬうちにこちら側に向きが変わる、すると犬に噛まれる夢

にうなされるって、本当かね。これは五郎さんのお母さん、先日はわざわざご挨

拶にご苦労様でした。ゴロちゃんも来ればよかったのに、まぁお母さんの前で例

の酒癖がでるとまずいと思ってんでしょうか、裸踊り、なんでもゴロちゃんのお父

さんゆずりだそうで、親子二代にわたるとなるとこれは芸術ですな、最近はこの

長屋で受け継ぐ者だでてきまして、この八ちゃんなんか熱心で……え、嘘だ、そ

んなこことはないだろう、この前のあの料亭で、え、それは無いことに……、これ

は病気中の悪い夢だったか。まあ今夜はそんなこともないでしょう、遠慮なく席

順など関係ありませんから適当に座って下さい、掛けて下さい」

ということになりました。

 それからは、八の言う “よく飲んで、よくしゃべって酔って酔って” 寝込む前に

件の紙を出し合いまして、和歌の一節を読み隠居さんに祝いの言葉を添えて渡

します。

隠居「なかきよのとおのねふりのみなめさめなみのりふねのおとのよきかな、

なるほどこれは回文ですな」

一同「いーえ、回復です」