特集ワイド
「笑っていいとも」終了へ
薄れた「ウキウキ」感
碓井広義・上智大教授(58)=メディア論=は、昼にバラエティーを生放送すること自体が画期的で、時代をリードする番組だったと評価しつつ「幕引きは遅過ぎたのかもしれない」と語る。
「バブル景気に沸いていた80年代のうちは、真っ昼間に芸人がスタジオで大騒ぎしても、ウキウキした時代の空気に合っていた。
しかし、その後の慢性不況や東日本大震災で社会は変わったのに番組は変わらず、世間の気分からズレてきた。他局は暮らしに役立つ情報に重点を置き、視聴率を稼いできた。
番組開始時に30代だった人は今60代。年金、社会保障など不安を抱える中で他の情報番組に流れるのは当然。むしろよく持ちこたえた」。
時代のウキウキ感は去り、「友達紹介」のドキドキもなくなった「いいとも」の終了は、時代の必然なのかもしれない。
「終了」公表から数日、収録の行われる東京・新宿のスタジオアルタ前に何回か足を運んだ。正午の時報とともに始まるこの番組。オープニングの数秒間、アルタ前の番組ファンを映し出す。小雨の日、約20人がいた。
「福岡から来ました。5、6回目」。そう話す宮部香江さん(33)はダウン症で普段は福祉施設に通う。1、2年に1度は母の映子さん(62)と東京に旅行し、必ずここに来る。映子さんは「タモリさんや出演者が目の前を通っていく。スターを身近に感じられる機会がなくなるのは残念」。
修学旅行の福島県の男子高校生4人組は「東京では真っ先にアルタに行こうと話し合った」。
「記者さんも一緒に映りませんか」。32歳の会社員男性に誘われた。「ピッ、ピッ、ポーン」。時報と同時にカメラがこちらを向く。皆、両手を振ったり、笑ったり。私も思わずVサインをしていた。わずか一瞬。でも「今、テレビに映ったんだ」という高揚感が一日中胸を埋めていた。
「テレビのウキウキ」が、アルタ前に残っていた。
(毎日新聞 2013年11月06日 東京夕刊)